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第64話 思わぬ伏兵
しおりを挟む一杯目のお茶を飲み干した私は、ふーっと一つ息を吐いた。
「今日は割とあたたかいですね」
「ええ……ほんとに……」
冬なのでもちろん暖炉を焚いた室内にいるわけだが、少し火の勢いが強いのかもしれないな。
誰か呼んで調節してもらおうかとぼんやり考えた時、私の言葉に返事をしたカナリアが急にがばっとテーブルに突っ伏した。
驚いて目を丸くする私の前で、カナリアは突っ伏したまま叫んだ。
「……お父様のハゲーっ!! 頭頂砂漠野郎ーっ!!」
……なに?
「カ、カナリアさん?」
「頭頂に毛がない……ケがない……ケガなくてなにより……」
突然、ザフィリ侯爵への罵倒を吐き出したカナリアに、私は戸惑った。
ザフィリ侯爵の頭頂部ってどんなだったっけ? 覚えていないわ。
いや、頭頂部のことはどうでもいいのよ。いったいなにが……
「はれえ?」
マーゴットがこちらを見て、こてん、と首を傾げた。
「シュテラ様? いつのまに分裂しましたの?」
分裂!? してないわよ!
「なにを言って……」
様子のおかしいふたりの赤く染まった顔を見て、私ははっとした。
そういえば、私もさっきからやけに暑いと思っていた。
まさか……
「エリーナ? このお菓子、お酒が入っているんじゃあ?」
原因はそれしか考えられない。
私が問いただすと、エリーナはきょとんとした表情で答えた。
「入ってますよ?」
「なっ……」
絶句する私の前で、エリーナは不思議そうに言った。
「お酒は入っていますけれど、いつもお父様の部屋からくすねて食べている私が平気なので問題ありませんわ」
「エリーナ!? エリーナさん!? いつからそんな悪い子に……っ」
どうやら、コーレア伯爵が自分用に作らせたお酒入りのお菓子を、エリーナは日常的にくすねていたらしい。
何故、それを持ってきた?
「美味しいので、皆様にも食べていただきたくて……お父様は「お酒がたっぷり入っているから食べると酔うぞ」と脅してくるのですが、私は一度も酔ったことありませんし」
どうやら、エリーナはお酒に強い体質のようだ。対して、カナリアとマーゴットはお酒に弱いのだろう。
私は少し暑い程度で頭ははっきりしているが、カナリアとマーゴットは完全に酔っぱらっている。
「エリーナ? もしかして自覚がないのかもしれないけれど、あなたはおそらくお酒に強いのよ!」
「まあ……では、もしかして前回の人生で何度かコリン様に食べさせた時、毎回一つ食べただけで眠ってしまっていたのは、お酒のせいだったのですか?」
「たぶんそう!!」
なんてこと。
おとなしそうな顔をしてやらかしてくれるじゃないのよ、エリーナ・コーレア。
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