死に戻りの公爵令嬢は嫌われ者の下僕になりたい

荒瀬ヤヒロ

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第62話 グレイ家への訪問

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 冬期休暇。
 厳しい寒さに耐えるためにも、ヒューのかっこよさを目に焼きつけなければいけないわよね。異論は認めない。
 けれど、休暇に入ってすぐにヒューの元に手紙が届いた。
 グレイ侯爵家からの手紙だ。

「一度帰ってこい、だってさ」

 手紙を読み終えたヒューが溜め息を吐いた。
 グレイ侯爵と夫人はヒューが辺境送りになって以来、手紙一つ寄越さなかったし、この一年間、ヒューがずっと我が家に滞在していてもなにも言ってこなかったのに、何故今さら。

「問題起こして公爵家に見放されると思っていた息子が、予想と違っていまだに公爵令嬢の婚約者候補やってるから、様子見したくなったんだろ」

 ヒューは意外なほど冷静だった。

「しょうがねえから、ちょっと行ってくる」
「私も行く!」

 私はしゅびっと手を挙げた。

「ええ?」
「婚約者候補として、挨拶に行ってもいいでしょう?」

 私は憤っていた。グレイ侯爵家のヒューに対する扱いに。

 今回のヒューは辺境や我が家で家族から離れてのびのび過ごしているけれど、前回の彼はたったひとりで孤独に耐えていたのだ。両親から期待されず、兄達から馬鹿にされる日々を重ねていれば、多少荒れた性格になるのも無理はないだろう。

 休暇前のテスト、ヒューは真ん中くらいの成績だった。
 邪魔されずにきちんと勉強できる環境さえ与えられれば、ヒューは落ちこぼれなんかじゃなかったのに。

 それをわかっていない侯爵家で、ヒューが傷つけられるのを阻止しなければ。

 ヒューは私が守ってみせる!

 渋るヒューにしつこく食い下がって、一緒に連れていってもらえることになった。

 その三日後、私はヒューと共にグレイ侯爵家の門をくぐった。

「これはこれは、ステラ様。よくぞおいでくださいました」

 侯爵夫妻はにこやかに出迎えてくれたけれど、空気がピリピリしているのは誤魔化せなかった。

「ひさしぶりね、ヒューイット」

 夫人もぎこちなくヒューに微笑みかけた。

「ずっと連絡しなくてごめんなさいね。辺境から帰ってきて大変な想いをしたのだし、学園一年目はそっとしておいた方がいいとグリーンヒル公爵に忠告されたものだから」

 なるほど。ヒューが我が家で落ち着いて過ごせるように、お父様が釘を刺しておいてくれたみたい。
 さすがお父様だわ。

 その後は侯爵夫妻とお茶を飲み、辺境でのことや学園生活、我が家での暮らしについて尋ねられたけれど、ヒューはのらりくらりと答えて詳しい話はしなかった。私も当たり障りなく笑って誤魔化す。

 侯爵夫妻の最大の関心事は、ヒューがこのまま私の婚約者候補でいて、グリーンヒル公爵家と繋がりが持てるか否かってことだろうから。
 私の婚約者候補じゃなくなったって、ヒュー本人が素晴らしいことには変わりがないのにね。

 私がいるせいか、侯爵夫妻は終始他人行儀だった。ヒューを守る、なんて言ってついてきちゃったけど、私がいるせいで親子の会話ができなかったのかしら。

 そう考えた私は、帰りの馬車の中でヒューに謝罪した。

「ごめんなさい。私は来ない方がよかったよね」
「んなことねえさ。おまえがいてくれたおかげで、俺は楽だったよ」

 ヒューはふっと笑みを浮かべた。

「あの家では、いつもひとりぼっちだと思っていたから、今日は隣に一番強力な味方がいて心強かったさ」

 そう言って、ヒューは吹っ切れたような顔をしていた。



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