死に戻りの公爵令嬢は嫌われ者の下僕になりたい

荒瀬ヤヒロ

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第56話 収穫祭

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 収穫祭がやってきた。私はヒューとジュリエットと一緒に中庭でごちそうを楽しんでいた。

「こうして外で食事をすると辺境のことを思い出すね。ジョージもいればよかったのに」

 ジュリエットがそう言って肩をすくめた。

 ジョージ、元気にしているかしら。
 ジョージが入学してくるのは私達が四年生になる年だから、ルナマリアが編入してくるのと同時だ。
 殿下による平民居住区の生活改善によってルナマリアが魔女の力に目覚めなくなるのを期待しているけれど、どうなるかはまだわからない。

「ジョージとは手紙のやりとりはしてるけど、やっぱり早く会いたいね」
「ジュリエットとヒューには返事が来るのに、私にはあまり来ないのは何故なの?」
「ヒューを讃える言葉ばかり書き綴っているから呆れられてるんだよ……」

 時々ジュリエットの友達がやってきて挨拶したり一緒にお茶を飲んだりして、楽しい時間は過ぎていった。

「ふははははっ! やっとみつけたぞ、ヒューイット・グレイ!」

 やだ。なんか来た。

 嫌々ながら振り向くと、何故か山盛りの栗が入った籠を抱えた殿下がいた。

「どうも、殿下」

 ヒューが一応挨拶をする。栗を抱えて高笑いする男になんか挨拶しなくていいわよ、と言いたいけれど、相手は第一王子だ。無視するわけにもいかない。

「ヒューイット・グレイ! 正々堂々、僕と勝負しろ! 制限時間内にどっちが多く栗の皮を剥けるか勝負だ!」
「何で俺がそんな爪が痛くなりそうな勝負をしなくちゃいけないんだ……」

 殿下の持ちかけた勝負に、ヒューは困惑して眉根を寄せる。

 そうよそうよ! そんな勝負をしたらヒューが指先を痛めちゃうじゃない!

「ふっ! 逃げるのか!? 栗の鬼皮に恐れをなしたらしいな!」
「いや、別に鬼皮を恐れているわけじゃなくて、意味がわからないからやりたくないだけなんだけど……」

 大量の栗を所持しているせいか何故か自信満々な栗王子が声を張り上げるせいで、周りの生徒達もなにが起きたのかとこちらに視線を送ってくる。

「さあ、潔く栗の皮を剥け!」

 栗王子はよくわからない脅迫をしてくる。

 ちょっと、これ以上ヒューを脅したら許さないわよ。

「……はあ、わかったよ」
「ヒュー!?」

 ヒューが溜め息を吐いて立ち上がったので、私は慌てて引き留めた。

「こんな勝負することないわ! 爪が痛くなっちゃうわよ!」
「そりゃそうだが、こんなに注目を浴びちゃ逃げられないだろう」

 ヒューの言う通り、周囲の生徒達はすっかりおもしろがって栗王子を囃し立てている。
 うぬぅ……

「なら、私が受けて立つわ!」
「ステラ!?」

 私はヒューを庇うように前に立った。

「ヒューの爪を痛めるぐらいなら、私が代わりに鬼皮を剥くわ!」
「馬鹿言うな! お前にそんなことをさせられるか!」
「でもっ……」

 ヒューは私を抑えて栗王子に向き合った。

「俺がやる。ステラのためなら、栗の鬼皮ぐらいいくらでも剥いてやるぜ」
「ヒュー……っ!」

 私はヒューの背中をみつめて胸を押さえた。



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