54 / 89
第54話 平民の生活環境改善計画
しおりを挟むステラが平民の心配をしているらしい。
さすがはステラだ。やはり君は王妃となるにふさわしい。
「バーナード! 知恵を貸せ!」
僕は早速バーナードとアダムを集めて「平民の間で病が流行るのを防ぐ方法」について話し合った。
「清潔と栄養が肝心らしいんだ」
「確かに……平民では満足に体も洗えませんからね」
「なに? そうなのか?」
僕は平民の暮らしなどまったく知らないが、バーナードとアダムは少しは知っているようだ。
平民の家には風呂がなく、公衆浴場は存在するが貧しい平民は滅多に利用しないらしい。
「では、三日に一回は必ず浴場に行かなければ罰を与えるとお触れを出せばよいのか」
「いいえ、殿下。それでは解決しません。明日食べるものの心配をしている平民にそんなお触れを出せば恨まれてしまいます」
「では、浴場を無料にすればいいだろう」
「それでは浴場を運営できないでしょう。水代だって馬鹿にならない」
そうなのか。
公衆浴場がどういうものなのか、想像ができないな。城の風呂はバスタブにひとりでつかるものだが、大人数が入る風呂とはどんなものだろう。
「よし。視察に行くぞ。実際に見てみなければわからん」
善は急げだ。僕はバーナードとアダムの他に数名の護衛を引き連れて、平民居住区の公衆浴場を訪れた。
目にした浴場はひどいものだった。掃除が行き届いていないのか、あちこち黴びているし、浴槽の湯はいつ入れ替えたのか濁っている。暗いしじめじめしているし、これでは金を払って入ろうという気にならない。
「まずは公衆浴場の衛生状態を改善しなければ……なにかいい方法はないか……」
城の自室で公衆衛生について書かれた書物を漁っていた僕は、ある記述をみつけて愕然とした。
***
それから三ヶ月後、僕達のアイディアで公衆浴場は生まれ変わっていた。
まず、開店直後から二時間は普通の料金、その後の二時間は普通料金の半額、その後から閉店まではさらに半額という時間帯ごとに違う料金を設定した。
こうすると、当然金がもったいないから安い時間帯に人が殺到する。だが、人が多すぎて辟易した者は少し多めの金を払ってもすいている時間に入ろうと考える。生活の余裕のある平民は普通料金を払って、すいていて湯がきれいな時間に来るようになる。
客単価は下がっても、今まで金がなくて来なかった客層が閉店間際に押し寄せるようになれば、客の数は増えるので大きな損にはならない。どころか、やりようによっては利益も出る。
それから、湯の中に活性炭を詰めた袋を沈めてある。
ある書物に書いてあった。炭には臭気や色素を吸着する力が大きく、脱臭・浄水に用いられると。
湯の浄化に使う以外にも、石鹸に砕いた炭の粉を混ぜてみたところ、汚れがとてもよく落ちることが判明した。
そうか。ステラが僕に活性炭を投げつけてきたのはこのためだったんだな。彼女は僕に「平民達を救ってくれ」と訴えていたんだ。
気づくのが遅れてごめんよステラ。でも、君が気づかせてくれた活性炭の力で平民達の衛生状態を改善することができたよ。
さあ、次は栄養状態の改善だ!
62
お気に入りに追加
1,035
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】内緒で死ぬことにした 〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜
たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。
でもわたしは利用価値のない人間。
手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか?
少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。
生きることを諦めた女の子の話です
★異世界のゆるい設定です
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
貴方もヒロインのところに行くのね? [完]
風龍佳乃
恋愛
元気で活発だったマデリーンは
アカデミーに入学すると生活が一変し
てしまった
友人となったサブリナはマデリーンと
仲良くなった男性を次々と奪っていき
そしてマデリーンに愛を告白した
バーレンまでもがサブリナと一緒に居た
マデリーンは過去に決別して
隣国へと旅立ち新しい生活を送る。
そして帰国したマデリーンは
目を引く美しい蝶になっていた
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる