死に戻りの公爵令嬢は嫌われ者の下僕になりたい

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
上 下
52 / 89

第52話 平民居住区

しおりを挟む




 平民居住区に行きたいと言うとお父様にめちゃくちゃ心配されてしまった。
 説得してなんとか許してもらったけれど、腕利きの護衛をたくさん連れていくことになってしまった。

 もちろん、護衛は連れていくつもりだったけど、そんなにぞろぞろ連れ歩きたくない。

 けれど、あんまり心配をかけてお父様が『血まみれ公爵』化したら大変だし……仕方がないわね。

 というわけで、私とヒューは平民居住区へやってきた。
 私もヒューもアニーに用意してもらった平民が着るような質素な服を身につけている。

 質素な格好をしていてもヒューの輝きは止められないわ!

 護衛達も平民の格好で少し離れてついてきている。
 平民居住区は貴族の家が並ぶ中心街よりも人が多くて、そこら中に土埃が舞い上がっている。

 んー。見た感じ、家と家が密集していて、庭がないから草木も見えなくて全体的に空気が乾いていて砂っぽい気がする。
 平民が住む場所はこんな感じだったのね。知らなかったわ。

 家の扉が開いて、その家のおかみさんがバケツの中身を道にぶちまけた。
 掃除に使った水かしら……人が歩く道にまいちゃうのね。道はゴミもたくさん落ちているわ。リンゴの芯が落ちていて黒い虫がたかっている。

「ステラ、大丈夫か?」
「ええ……」

 なんだかいろいろと混ざった臭いがして、少し気分が悪くなった。心配してくれるヒューの腕にすがりついて歩みを進める。

「お医者さんはどこかしら……」

 探し回ってやっとみつけた町医者は、床屋と兼業している年寄りだった。
 病が流行ったら、とても彼ひとりで患者を診ることはできないだろう。
 中心街に住む医者は貴族のお抱えになっている者が多く、平民を診るためにここまでやってきたりはしないらしい。

「普段、病気になったらどうしているのかしら?」

 首を傾げていると、護衛がすっと近づいてきて耳打ちしてくれた。そもそも平民は滅多に医者にかからないらしい。彼らの多くは医者にかかる金がなく、たいていの場合、医者が呼ばれた時にはもう手遅れだという。
 知らないことばかりだ。

 初めて平民の暮らしの一端を知った私は、打ちのめされて帰宅した。
 病気になったらお医者さんを呼んで、栄養のあるものを食べて温かくして眠るのは当たり前のことじゃなかったのね。

 いったいどうすれば病が流行るのを防ぐことができるのかしら。街を清潔にするのも十分な食料を行き渡らせるのも、私の手には余ることだわ。

 質素な服を脱いで普段着のドレスに着替えながら、私は溜め息を吐いた。どうすればいいのか全然思い浮かばないわ。
 病を防ぐことってできないのかしら。うーん。




しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です

渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。 愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。 そんな生活に耐えかねたマーガレットは… 結末は見方によって色々系だと思います。 なろうにも同じものを掲載しています。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

ある国の王の後悔

黒木メイ
恋愛
ある国の王は後悔していた。 私は彼女を最後まで信じきれなかった。私は彼女を守れなかった。 小説家になろうに過去(2018)投稿した短編。 カクヨムにも掲載中。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

処理中です...