死に戻りの公爵令嬢は嫌われ者の下僕になりたい

荒瀬ヤヒロ

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第40話 洗うのもったいない

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「ステラ! 会いたかったぞ!」

 やだあ。ゴミがこっち来るー。

 はあ、でもゴミでは一応は王子だから挨拶しないと……

「おひさしぶりです。第一ゴミ殿下」
「ステラ……まだこのグレイ家の四男につきまとわれているのか。安心しろ。これからは僕が守ってやる」

 なんか騒音が聞こえるわね。

「申し訳ありません、第一ゴミ殿下。ここは耳障りな騒音がうるさくて、私の婚約者の耳が汚れるので失礼いたします。行きましょ、ヒュー」
「待て! 逃がさないぞ、悪魔に魂を売った愚か者め!」

 ゴミ殿下は懐から聖書を取り出してヒューに向かってロザリオをかざした。

「悪しき魂よ、滅びよ!! アブラウンケンウンケンンソワカジュゲムジュゲムゴコウノスリキレ……」

 突然、呪文を唱え出すゴミ殿下。
 いったい、どうしたのかしら。なにか嫌なことでもあったのかしらね。

「同じクラスになれるといいね、ヒュー」
「ああ……」

 私は「黒魔術が!」「ステラ! 惑わされるな!」などと騒ぐゴミ殿下を無視して、ヒューの腕を引いて教室へ向かおうとした。

「ステラ! ヒューイット!」

 元気な声が響いた。

「ジュリエット!」

 辺境伯令嬢のジュリエットがこちらへ駆け寄ってきて、私達は再会を喜んで抱き合った。

「わー、やっぱ王都で見ると違うねー。ステラってば公爵令嬢って感じだー」
「なに言ってるのよ! ジュリエットもいつもより野性味が抑えられているわよ。普通の令嬢みたい」
「まーね。辺境と一緒じゃさすがにまずいもの。ところでステラ、こっちの怪しいひと誰?」

 ジュリエットがいまだに呪文を唱え続けるゴミ殿下を指して尋ねる。

「第一王子のゴミ殿下よ。気にすることないわ」
「そっかー」

 ジュリエットはそれ以上は深く尋ねずに私達と一緒にクラスを確認しにいった。
 前回はヒューとは違うクラスだったのよね。今回はどうかしら。

「ええっと……お、私とヒューイットは同じクラスだ。Bクラスだぞ」
「ステラは……Aクラスか」
「そんな……私だけ別だなんて……」

 前回も私はAクラスだった。前回とは大分違う人生になっているから、クラスも変わっていないかと期待していたんだけど、そこは変わらなかったみたい。

「ふはははは! 残念だったな、グレイ! ステラは僕と同じAクラスだ! 僕達は愛の絆で結ばれているんだ! わかったら早くステラを解放しろぉっ!」
「いやだわ……お父様にお願いして、教室に空気を浄化する活性炭を備えるように手配してもらおうかしら……いえ、それよりゴミを始末して……」
「ステラ」

 憂鬱な気分でぶつぶつ呟く私を引き寄せて、ヒューがこめかみに軽く口づけした。

「クラスが違って残念だけど、頑張れよ。休み時間には会いにいくから」
「ふえっ」

 私は文字通り飛び上がった。

 え? 今、ちゅーってされた? こめかみにちゅーって。

「貴様っ! よくもステラに不埒な真似を……っ!!」
「どうしようぉぉぉぉっ!! 私、今日、お風呂入れないぃぃぃぃっ!!」

 私は赤くなった頬を抑えて絶叫した。




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