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第33話 お父様の意外な一面
しおりを挟むベルン子爵のお屋敷では子爵夫人とご子息があたたかく出迎えてくれた。
「まあまあ。ようこそいらっしゃいました」
「お世話になります。ベルン子爵夫人」
「サリーナと呼んでちょうだい。ステラ様のお父様には学生時代にとってもお世話になったのよー」
ベルン子爵夫人サリーナ様は、にこにことほがらかで大変魅力的な方だった。今年七歳になったというご子息のジョージ様は人見知りなのかサリーナ様の後ろに隠れている。
「事情は聞いているわ。好きな男の子を追いかけてくるだなんて情熱的ね!」
「えへへ」
こちらへ来ることになった理由を肴にお茶を振る舞われ、私は照れて頭を掻いた。
「サリーナ様とご夫君は、私のお父様のご友人だったとか」
「ええ。学生時代にね、私が当時の第二王子殿下に気に入られてしまって、主人との仲を引き裂かれそうになった時にグリーンヒル公爵が助けてくださったのよ。今でも思い出せるわ。第二王子殿下を投げ飛ばして中庭の池に叩き込むグリーンヒル公爵の勇姿を……」
「お父様が……?」
あの温厚なお父様にそんな過去がおありだったなんて。
確かに、下級貴族の令嬢に横恋慕した挙げ句、婚約者の侯爵令嬢へ婚約破棄を申し入れて、結局隣国に婿に出された第二王子の噂は聞いたことがあるけれど。
「日課のように池に叩き込まれるものだから、私達が通っていた頃の学園では中庭の池が『殿下の池』と呼ばれていたのよ」
あっ。確かに私が学園に通っていた頃にも『殿下の池』って呼ばれていたわ。由来は知らなかったけれど、お父様が関わっていただなんて。
他にも『殿下埋没の薔薇園』とか『殿下半死半生の渡り廊下』とかあったんだけど……
「私と主人がこっそり逢っていた薔薇園で第二王子殿下に迫られた時には、どこからともなく現れたグリーンヒル公爵が殿下に跳び蹴りをかまして、倒れた殿下の背中を踏みつけて半分ほど土に埋めたこともあったわね。それから、第二王子殿下に無理やり手を引かれて街に連れ出されそうになった時には、グリーンヒル公爵が殿下にラリアットをキメて止めてくれて、すかさず流れるような締め技で殿下を落として渡り廊下に放置したのよね」
お父様……お父様は祖父が先々代の王弟で男系男児なので一応うっすらと王位継承権があるとは聞いていたけれど、陛下の弟君相手にそんなにもはっちゃけていたとは。
それにしても、王族はクズばっかりなのか。陛下はまともな方だったと思うんだけどなあ。第一ゴミ殿下が叔父に似てしまったということなのか。
「私達の代ではグリーンヒル公爵の勇猛さを知らぬ者はいないわ」
「そうなのですか……」
思いがけないお父様の武勇伝を聞かされて、私は温厚なお父様の意外な一面を知って戸惑ったのだった。
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