死に戻りの公爵令嬢は嫌われ者の下僕になりたい

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
上 下
15 / 89

第15話 いいことだらけじゃないですか

しおりを挟む





「そんなら、俺をお前の婚約者にしろよ。俺は知っての通りなんの力もない四男だ。継ぐ爵位もなく、自分の実力で成り上がる才能もない。立派な婚約者を捕まえない限りお先真っ暗なんだよ」

 ヒューイット様は自らを嘲るようにはっと息を吐いた。
 私は信じられない想いでいっぱいだった。

「い……」
「ははっ。嫌に決まってるよなあ、俺なんかと」
「いいんですかあっ!?」
「……は?」

 私は尊敬のまなざしでヒューイット様をみつめた。

 暴言事件のせいでヒューイット様に婚約者ができないのは知っていた。
 だから、暴言事件を防いでヒューイット様に婚約者が出来るように協力しようと思っていたのだが。
 私が婚約者になってしまえば、ヒューイット様はそもそも見合いの必要がなくなって、暴言事件が起こらなくなるわ。

 それに、婚約者ならヒューイット様のおそばにいてもおかしくない。ヒューイット様が困ったときにいつでも助けて差し上げられる。恩返しがしやすくなる。

 公爵家の後ろ盾ができれば、きっとヒューイット様を悪く言う輩もいなくなるわ!

 いいことだらけだ。もちろん、ヒューイット様に本当に好きな相手が現れたら、婚約は白紙に戻してヒューイット様の恋を応援するわ。
 なんてこと。こんなにいい方法が思い浮かばなかっただなんて、私って馬鹿。
 そして、ヒューイット様はさすがだわ!

「しましょう! 婚約! 是非是非是非っ!!」
「え……あ……」
「善は急げですわ! 早速お父様とお母様にお許しをいただかなくては!」
「ちょっ、ちょっと待て!!」

 ヒューイット様が盛り上がる私を慌てて止めた。

「んなこと無理に決まってるだろう!」
「何故です?」
「俺みたいなのが公爵令嬢と婚約なんてできるかっ!」

 一喝されて、私はしゅん、と眉を下げた。

「そうですよね……私のような者がヒューイット様の婚約者を名乗るだなんて、おこがましいですよね……」
「どうしてそうなる!? 違えよ!」

 騒いでいたせいか、お母様と侯爵夫人が慌てて駆けつけてきた。

「ステラ様! 申し訳ありません。息子がなにか粗相を」

 侯爵夫人がぎろっとヒューイット様を睨んだ。

「いいえ。違うのです。私とヒューイット様が婚約するという話をしていただけで……」
「「婚約!?」」

 お母様と侯爵夫人が声を合わせて叫んだ。

 ヒューイット様は少し青ざめた表情で立ち尽くしていた。



しおりを挟む
感想 24

あなたにおすすめの小説

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?

ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」 「はあ……なるほどね」 伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。 彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。 アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。 ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。 ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です

渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。 愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。 そんな生活に耐えかねたマーガレットは… 結末は見方によって色々系だと思います。 なろうにも同じものを掲載しています。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

旦那様には愛人がいますが気にしません。

りつ
恋愛
 イレーナの夫には愛人がいた。名はマリアンヌ。子どものように可愛らしい彼女のお腹にはすでに子どもまでいた。けれどイレーナは別に気にしなかった。彼女は子どもが嫌いだったから。 ※表紙は「かんたん表紙メーカー」様で作成しました。

愛のゆくえ【完結】

春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした ですが、告白した私にあなたは言いました 「妹にしか思えない」 私は幼馴染みと婚約しました それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか? ☆12時30分より1時間更新 (6月1日0時30分 完結) こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね? ……違う? とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。 他社でも公開

処理中です...