4 / 89
第4話 私はあなたの味方です
しおりを挟むヒューイット・グレイ——ヒューイット様は目を点にして私を見た。
「えっと……つまり、あなたのお役に立ちたいので、なにかできることがあれば遠慮なく言ってください!」
「お前……なに言ってんだ?」
ヒューイット様は思いきり胡散臭そうに私を睨んだ。
「からかってんのか?」
「本気ですっ!」
「嘘言え。お前、公爵令嬢なら王子のところに行かなくていいのかよ」
「問題ありませんっ! 第一王子殿下には出来れば近寄りたくないので!」
私が正直にそう言うと、ヒューイット様はちょっと片眉を跳ね上げて笑った。
「はっ。マジかよ。女ってああいうのが好きなんじゃねえの?」
確かに、ジュリアス殿下の見た目は明るい金の髪に空色の瞳という、女の子の憧れの王子様そのものだ。見た目だけは。
中身は邪魔な婚約者に冤罪を着せて地下牢に放り込んで、余計な助けが来る前にさっさと令嬢として生きていけないようにしてやれっていうド外道なことを考えるド腐れ野郎ですから。
思い出すと腹立つわ。
「殿下のことはこれっぽっちも好きじゃありません。私はヒューイット様と仲良くなりたいんです」
さすがにいきなり下僕発言はまずかったか。下僕って下働きの男性のことだしな。「召使いにしてください」の方がよかっただろうか。
「お前、俺が周りからなんて呼ばれているのか知らねえのかよ。俺は——」
「『侯爵家の出来損ない』『失敗作』『兄達の残り滓』でしょ?」
前回は、誰もが彼をそう呼んで嘲笑っていた。笑いこそしていないが、その会話の中に私もいたのだから同罪だ。
もしも、彼が私の名誉を守ってくれていなければ、私はあの場で兵士達に嬲られ、たとえ生きて助け出されたとしても死んだも同然の身の上で、社交界で噂のネタにされ一生笑い者にされただろう。
「周りがなんて言っていようといいんです。ヒューイット様が嫌われ者でも乱暴者でもかまいません。ただ、私はヒューイット様の味方だと覚えておいてください」
私は胸の前で手を組んでにっこりと微笑んだ。
ヒューイット様は一瞬面食らったような顔をして、それから「わけわかんねえ!」と怒鳴って去っていってしまった。
とりあえず、今日のところはこれでいいや。
ヒューイット様と仲良くなって、召使いにしてもらえる方法を考えよう。
そうと決まれば、もうお茶会に用はない。
私は会場へ戻ると、付き添いの母を言いくるめて公爵家へ帰ったのだった。
103
お気に入りに追加
1,035
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
幼馴染がそんなに良いなら、婚約解消いたしましょうか?
ルイス
恋愛
「アーチェ、君は明るいのは良いんだけれど、お淑やかさが足りないと思うんだ。貴族令嬢であれば、もっと気品を持ってだね。例えば、ニーナのような……」
「はあ……なるほどね」
伯爵令嬢のアーチェと伯爵令息のウォーレスは幼馴染であり婚約関係でもあった。
彼らにはもう一人、ニーナという幼馴染が居た。
アーチェはウォーレスが性格面でニーナと比べ過ぎることに辟易し、婚約解消を申し出る。
ウォーレスも納得し、婚約解消は無事に成立したはずだったが……。
ウォーレスはニーナのことを大切にしながらも、アーチェのことも忘れられないと言って来る始末だった……。
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛のゆくえ【完結】
春の小径
恋愛
私、あなたが好きでした
ですが、告白した私にあなたは言いました
「妹にしか思えない」
私は幼馴染みと婚約しました
それなのに、あなたはなぜ今になって私にプロポーズするのですか?
☆12時30分より1時間更新
(6月1日0時30分 完結)
こう言う話はサクッと完結してから読みたいですよね?
……違う?
とりあえず13日後ではなく13時間で完結させてみました。
他社でも公開
私は心を捨てました 〜「お前なんかどうでもいい」と言ったあなた、どうして今更なのですか?〜
月橋りら
恋愛
私に婚約の打診をしてきたのは、ルイス・フォン・ラグリー侯爵子息。
だが、彼には幼い頃から大切に想う少女がいたーー。
「お前なんかどうでもいい」 そうあなたが言ったから。
私は心を捨てたのに。
あなたはいきなり許しを乞うてきた。
そして優しくしてくるようになった。
ーー私が想いを捨てた後で。
どうして今更なのですかーー。
*この小説はカクヨム様、エブリスタ様でも連載しております。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる