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第3話 恩人と下僕志望
しおりを挟むヒューイット・グレイのことで私が知っていることは少ない。
同い年だし、彼はトラブルメイカーだったので噂ではよく聞いた。学園で見かけることもあったが、いつもひとりで、仲のいい友人もいないようだった。
喧嘩して上級生を殴ったとか、お茶会で初対面の令嬢を罵倒して泣かせたとか、よくない噂ばかり聞いたわ。
でも、そんな噂は関係ない。前は噂を鵜呑みにしてとんでもない不良だと思っていたけれど、今の私は彼が不良だろうが嫌われ者だろうがかまわない。彼のために全力で出来ることをしよう。
王宮の庭で開かれた華やかなお茶会には、五歳から十二歳までの伯爵位以上の令息令嬢が集められていた。
今思うと明らかにジュリアス殿下の婚約者を探すためのお茶会だ。その証拠に、お茶会が始まると令嬢達は皆ジュリアス殿下の周りに集まってしまった。
私も前回はあの中にいたのよね。脳天気に王子様とお話したい~とか言っていた覚えがあるわ。トリハダ立っちゃう。
今回はジュリアス殿下などどうでもいいので、私はさっさと侯爵位の子息達が集まっている方へと足を向けた。
すると、
「ああ!? もう一回言ってみやがれ!!」
お茶会には似つかわしくない怒声が響いた。
庭中の視線が一カ所に集まる。
前回と同じだわ。前も、彼はこうやって怒鳴り声をあげて、顰蹙を買ってお茶会の途中で帰ってしまったのだ。
何人かの男の子達相手に、肩を怒らせて立っている男の子。
少し癖のあるダークブロンド——間違いない。彼だ。
「グレイ家の四男ですわよ」
「お兄様方は優秀ですのに」
「出来損ないなのですって」
ひそひそとご令嬢達がささやき、ヒューイット・グレイの周囲から人がいなくなる。皆、遠巻きに彼を眺めて、嘲笑を浴びせている。
「チッ」
苛立たしげに舌を打つと、彼は会場から出ていってしまった。
もちろん、私は彼を追いかけた。
「待って! 待ってください!」
「あ?」
振り返って私を睨んだ顔は、間違いなくヒューイット・グレイのもの。
「私、グリーンヒル公爵家のステラと申します」
「……何か用か?」
「はい! あの、私……」
さて、なんと言おう。初対面でいきなりお礼を言われてもなんのことかわからないだろうし、前回のことを話しても信じてもらえないかもしれない。私はただ、彼に感謝していて、彼のために生きたいと思っているだけだ。それを伝えたい。
「ヒューイット様……私、あなたに……っ」
感謝している。あなたは私の名誉を守ってくれた。だから、あなたの役に立つならなんでもする。
「私っ、あなたの下僕になりたいっ!」
私はこみ上げてくる想いを素直に伝えたのだった。
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