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第2話 巻き戻りと恩返し
しおりを挟む天の門をくぐって神の御許へ行けたなら、私はヒューイット・グレイへの感謝を天の神に余すことなく伝えよう。
どうか彼が、幸せな人生を送れるように。
安らかな気持ちで、私は目を開けた。
見慣れた天井が見える。
「お嬢様。おはようございます」
侍女のアニーの声が聞こえる。
「……え?」
私は身を起こして周囲を見回した。見慣れた自分の部屋に、すぐそばに佇む侍女のアニーがいる。
「ステラお嬢様。どうかなさいましたか?」
「……アニー?」
「はい?」
私は自分を見下ろした。ネグリジェを着て、たった今まで寝台に横になっていたようだ。
「ア、アニー? 私、助かったの?」
「は?」
首を触ってみるが、包帯も巻かれていなければ傷もない。
「お嬢様。ご気分が悪いのですか? 今日はお茶会ですが、大丈夫でしょうか?」
アニーが顔を覗き込んでくる。
お茶会……?
「王宮での初めてのお茶会、あんなに楽しみにしていらしたでしょう?」
私は目を見開いてアニーをみつめた。
王宮でのお茶会……それって、私が十歳の時に参加したお茶会のこと?
「アニー、私は何歳?」
「お嬢様? 本当に大丈夫ですか? お嬢様は先月十歳になられたでしょう?」
嘘。もしかして、時間が巻き戻ってる?
いいえ。今までのは夢だったのかしら?
……いいや、あれが夢のはずがない。あれは現実に起きたことだ。
首に当てた冷たい感触を思い出しながら、私は考えた。
私は死んだはず。それなのに、どうして十歳の頃に戻っているのだろう。
十歳の時、王宮で行われたお茶会でジュリアス殿下と出会った。それまで出会ったことがなかった同い年の男の子で、人気者の王子様という存在に憧れを抱いて、「王子様と結婚したい」とお父様にねだったのだ。
それで、婚約者になった。けれど、八年後に婚約破棄されて地下牢へ放り込まれる。そこで、私は……
「お嬢様。お茶会へ行く支度をしなければ」
アニーに促され、私ははっとした。
お茶化に行きたくない。というか、ジュリアス殿下に会いたくない。
どうしてかはわからないけれど、婚約前に戻っているのだ。もうあんなことは二度と御免だ。
お茶会には行かない。
そう言いかけた。けれど、同時に思い出した。
ヒューイット・グレイ。
グレイ侯爵家の四男で、優秀な兄達と比べられ、荒れた性格で常に嫌われ者だった。確か、婚約者もいなくて、学園を卒業したら侯爵家を出されて平民になると聞いていた。
そうだ。ヒューイット・グレイもあのお茶会に参加していたはず。
ていうことは、お茶会に行けばヒューイット・グレイに会える!
王太子には二度と会いたくないけれど、ヒューイット・グレイには会いたい。会ってお礼を言いたい。
でも、今の十歳の彼には、お礼を言ってもなんのことかわからないわよね。
いや、ヒューイット・グレイがただの十歳の子供だったとしても、私は彼には返しきれないぐらいの恩がある。
どうして時が戻ったのかはわからないけれど、やり直すことが出来るなら、私はヒューイット・グレイへの恩返しのために生きよう。
「アニー! 私、お茶会へ行くわ!」
ヒューイット・グレイに会う。
そのためだけに、私はお茶会への参加を決意した。
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