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第44話 お兄様の固い意志
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しおりを挟む「キースはね。自分にはゴールドフィッシュ男爵家を継ぐ資格がないため、養子を白紙にして欲しいと言っているんだ」
「ええっ?」
養子を白紙……ということは、我が家とは縁を切るということ?
「どうしてそんなっ」
思わず悲鳴に近い声が出た。
だって、これまでキース様は男爵家を継ぐことに不満な様子は見られなかったし、何も問題はなかったはずだ。
「キースは、アカリアを目の前でさらわれたことで責任を感じていてね。アカリアを守れなかった自分にはゴールドフィッシュ男爵家を継ぐ資格はないと言い張っているんだ」
「そんなの!キース様のせいじゃありません!」
私はお父様に食ってかかった。
「お父様!なんでキース様を引き留めてくださらないのですか!キース様がいなくなったらお父様だって困るじゃないですか!跡継ぎがいなくなるんですよ!?」
「キースはアカリアが婿を取ってゴールドフィッシュ家を継ぐべきだと考えているようだね」
「なっ……」
婿を取る?私が?
そりゃ、私だって貴族の令嬢だもの、前世を思い出す前はぼんやりといつかは婿を取ることになるんだろうなって考えていたけれど、前世を思い出して金魚屋を目指して、キース様が家に来てくれて、キース様が男爵家を継いでくれるんだとすっかり安心していたのに。
今さら、やっぱり止めたなんて言われても、納得できる訳ない。
「キース様はグラスイズ家に戻るおつもりなんですか!?」
「いや、実家には戻らず、騎士団に入るつもりらしい」
騎士団……まさか、このところキース様が王宮へ通っていたのは騎士団に入るために見学をしていたということ?
「入団資格を得るまでは傭兵扱いで荒くれ者どもと一緒に辺境勤務だろうけどね」
「……っ、止めてください!」
普通、貴族の男子が騎士団に入る時は、幾ばくかの金銭を支払って入団資格を「買う」のだ。入団後も、家の名前である程度の地位が与えられる。
そうでなければ、食いつめて傭兵家業に転んだ平民と一緒に一番下っ端の立場で一番危険な前線に配置されてしまう。生き残るのは難しいと言われる辺境勤務なんてキース様には絶対にしてほしくない。
だって、キース様は既にご実家のグラスイズ家からは籍を抜かれているし、ゴールドフィッシュ家の籍まで抜いたら貴族じゃなくなってしまう。
「キース様は、キース・ゴールドフィッシュです!お父様、跡継ぎを辺境に送ったりしませんよね!?」
私は必死に言い募ったが、お父様は何故か諦めたような表情で穏やかに言う。
「残念だが、キースの意志は固い。気持ちよく送り出してやるしかないだろう」
「そんな……っ」
私は絶句した。
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