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第38話 不思議な気配
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しおりを挟む手紙に指示された場所に向かったキースは、町外れの空き家に辿り着いた。
「アカリア!」
名を呼び姿を探すが、キースの前に現れたのは探し求める義妹ではなく、顔を布で隠した怪しい男達だった。
「何者だ!」
「ゴールドフィッシュ男爵家キース様とお見受けいたします。我々は貴方様との商談を望んでおります」
「商談だと……?」
キースは眉をしかめた。
「ええ。商談です」
男は羊皮紙を取り出し、キースに見せつけた。
「ゴールドフィッシュ男爵令嬢と我々の間の「雇用契約書」です」
「なに……?」
「こちらにサインしていただきたい」
不躾な要求に、キースは怒りのあまり噛みしめた唇に血がにじんだ。
(雇用、ということは、まさかアカリアの『スキル』がばれているのか?領地から穫れると思っているのならば、アカリアを人質に俺から情報を引き出そうとするはずだ)
この連中はどこかの商会の人間だろうとキースは予想した。貴族を誘拐するだなんて思い切ったことをしたものだ。
もしも、キースが憲兵の元へ駆け込めば、彼らはただではすまないだろう。だが、それをするとアカリアに危害が及ぶ。
契約書にサインしてしまえば、憲兵に訴えてもこちらが不利になる。相手が商会であれば、資金力では太刀打ち出来ない。ゴールドフィッシュ男爵家は王都の貴族に顔が利くわけでもない。金と知己の力で抑え込まれてはアカリアを取り戻すことが出来なくなる。
「……アカリアの無事を確かめさせろ」
まずはアカリアの無事を確認し、時間を稼ぎその間に策を講じるべきだ。キースはそう決意した。
「心配せずとも、お嬢様は私どもが丁重にお預かりしております。たいへん可憐なお嬢様ですので、いっそ、雇うのではなく家族となっていただきたいくらいですよ」
「貴様っ……」
あからさまな挑発だが、連中が十分にやりかねないことだ。金の力で男爵家を抑え込んでアカリアを誰かと結婚させてしまえば、向こうは正当な権利でアカリアを囲い込むことが出来る。
「明日の朝、またここへ来ます。その時には是非ともサインをいただきたい。よくお考えください」
小馬鹿にするような言い方で、男達はキースに背を向けた。
「待てっ!!」
キースは後を追おうとしたが、荒れ果てた空き家の内部を熟知しているらしい男達はあっという間に姿をくらませてしまった。キースは床の抜けた廊下を踏み抜かないように走りながら歯噛みした。
「くそっ……」
(おそらくここにはアカリアはいない。俺がサインをするまでどこかに隠しているはずだ。男爵にも圧力をかけるつもりだろう)
キースは髪をかきむしった。
「アカリア……っ」
その時、キースはふと、何かの気配を感じて顔を上げた。
辺りには誰もいない。だが、キースは何故か自分のすぐ傍に何かがいるような気がしてならなかった。
不思議な気配がキースにまとわりつき、どこかへ導こうとしているように感じた。
だが、不気味な感じや恐ろしい気配ではない。
キースはその不思議な気配を追いかけて外に出た。
何故か、その気配の先にアカリアがいるような気がした。
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