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第37話 王都の夜

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 どれくらい時間が経ったのか、真っ暗な倉庫にコツコツと足音が響き、扉が開き光が差し込んだ。

 私は身を固くして戸口を見た。入ってきたのは小柄な中年男だった。

「どうも。ゴールドフィッシュ男爵令嬢。無礼な真似をして申し訳ありません」

 にこやかに歩み寄ってくる男を、私はぎゅっと睨みつけた。

「安心してください。危害を加えたりするつもりはありません。ただ、ちょっと商売の話がしたいだけですよ」
「商売……?」

 男はニヤリと品のない笑みを浮かべた。

「ええ。金魚という生き物にたいへん興味がありましてね」

 私はぐっと口を噤んだ。自分を狙うのだから、目的はおそらく金魚だろうと予想はしていた。
 ゴールドフィッシュ男爵領のどこで金魚が穫れるのか聞き出したいのだろう。もしくは、私を人質にしてキースから情報を引き出すつもりかもしれない。

 絶対に何も喋らないぞと決意を込めて睨みつけると、男は小馬鹿にするように笑った。
 そして、こう言った。

「いや、金魚以上にお嬢様に興味があるのです。なんでも、とっても珍しい『スキル』をお持ちだとか」
「!?」

 思いがけぬ言葉に、私は動揺した。

 私が金魚を出しているとばれている……?
 いったいどうして。誰かに見られていた?

 怯えた表情になった私を見下ろして、私の手を縛っていた縄を外して男はふんと鼻を鳴らした。

「今頃、うちの者がお兄様と交渉しているところですよ。きっと、貴女のことが心配なお兄様は賢明な判断をしてくださることでしょう」

 それだけ言うと、男は私を残して倉庫から出ていった。
 私は冷たい汗をかき、身を縮めた。

 あいつらの狙いは、私の『スキル』を使って儲けること……私の身柄を盾にして、キース様を脅迫するつもりだ。

 なんとかして、ここから逃げ出さないと。
 私は男が出て行った戸口ににじり寄った。扉の向こうには人の気配がある。おそらく見張りがいる。
 ここから逃げるには、見張りをなんとかしないと。

 私は無事に逃げる方法を探して、頭を悩ませた。


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