79 / 100
第35話 帰途
2
しおりを挟む「なんだ?」
キース様が扉を開けて御者に尋ねる。
「申し訳ありません。急に前に人が飛び出してきて……」
御者の言葉に扉から顔を出すと、道にうずくまる人影が見えた。
「ぶつかったのか?」
「いえ、急に倒れ込んだので、病人じゃないでしょうか?」
キース様が馬車から降りて、うずくまる男性に近寄った。私も馬車から降りてキース様に声をかける。
「キースお兄様、ひとを呼んできましょうか?」
「いや、馬車に乗せて医者に連れて行こう」
キース様がそう言って男性の肩に手を置いた時だった。
木の陰からばらばらと現れた人影に、私は声が出ないように押さえつけられた。
「キースさっ……」
「アカリア!?くっ……」
私に駆け寄ろうとしたキース様を、うずくまっていた男性が羽交い締めにし、布で口を押さえる。すると、キース様の体から力が抜けて地面に膝を突いた。何か薬品が染み込ませてあったに違いない。
『アカリア!』
『たいへん!』
きんちゃんとぎょっくんが男達にぴちぴち体当たりするが、もちろん男達は何も気づかない。
「おい、さっさと行くぞ」
いつの間にか御者も倒されていて、私は男達に縛られて担ぎ上げられた。
なんなの、こいつら。どうして私を?
「んんー!んーんんんー!」
必死に暴れるが、街から離れた道には他に人がいない。
「んーんんんー!」
キース様の名を呼ぶが、彼はぐったりと倒れていて目を覚まさなかった。大丈夫だろうか。眠らされただけだよね?
木の影に隠してあった小さな馬車に詰め込まれた私は、来た道を戻って再び王都へと連れ戻されたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
89
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる