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第34話 目撃
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しおりを挟む「くっそぉ……なんで俺がこんなことを……」
物陰に隠れながら、グレンはぶちぶちとぼやいた。
ナリキンヌ商会に婿入りしたものの、ちやほやされたのは最初だけで、最近では経営の勉強をしろだの従業員と一緒に店に立てだのとうるさく言われる。
ついには、最近勢いの増しているミッセル商会の偵察をしてこいと命じられる始末だ。おかげで、こんな物陰から商会を見張る羽目になっている。
「ミッセル商会は金魚とかいう小魚を売っているらしいが、なんだって皆そんなもんを欲しがるんだ?」
確かに珍しいがちっぽけな魚だろう。金を出して買う奴の気が知れないとグレンは思った。
「あーあ……こんな朝早くからよその商会を見張ったって、別に何も変わったことなんて……」
グレンがぼやいた時だった。
ミッセル商会の前に馬車が停まって、そこから見覚えのある男女が降りてきたのだ。グレンは目を見張った。
「キース……!」
それは貧乏男爵家に養子に行ったはずの兄だった。その横にくっついているのは確か男爵家の娘だったはずだ。
「なんでここに……」
グレンの見ている前で、男爵家の義兄妹はミッセル商会の主に迎えられ、別棟の建物に入っていく。
ミッセルだけが外に出てきたので、グレンはこっそりと建物に近寄った。
そっと中を覗くと、男爵家の娘が水の入った大きなガラスの容れ物の前に立ち、手をかざしている。
次の瞬間、グレンは「あっ」と声を上げそうになって口を押さえた。
大きなガラスの水槽に、突然小さな赤い魚が大量に湧いて出た。
「あれは……金魚か?」
グレンは息を飲んだ。
男爵家の娘が水槽の前に立ち、手をかざして金魚を出した。
「金魚は、もしかして、あの女の『スキル』で出したものなのか?」
グレンは見つからないようにそっと建物から離れ、思案した。
もしも、今見たとおり、金魚が男爵家の娘の『スキル』で生み出されたものだというならば、それを手に入れてしまえばナリキンヌ商会は金魚の市場を独占できる。
グレンはニヤリと口元に笑みを浮かべた。
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