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第28話 ありえない
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しおりを挟む「第三王子?」
いつになく真剣な表情でやってきたミッセル氏の話を聞いて、私は眉をひそめた。
ミッセル氏曰く、とっても我が儘で珍しいもの好きの王子様らしい。
独占欲がすごいらしいけど、でも、金魚はもう結構王都に出回っているし、そんなに心配ないんじゃないかしら。
「僕も噂には聞いたことがあるよ。とにかく珍しいものを見ると手に入れずにはいられないんだって」
ビオトープを覗いていたディオン様が腰を上げて言う。
「第三王子が金魚に興味を抱いたなら、アカリアは気をつけた方がいいね」
「ええ。伯爵の言う通りです。金魚を独り占めするために強引な手を使ってくるかもしれない」
強引な手、と言われても、いくら第三王子だからって既に売買されてしまった金魚はどうしようもないだろう。
私はそう思うのだが、ミッセル氏は深刻な表情を崩さない。
ちょいワルイケメン商人の深刻な顔、ときめくわ。
「アカリアと俺は明日領地へ帰るが、もしも第三王子がアカリアに興味を示したら上手く誤魔化しておけよ」
キース様が険しい顔でミッセル氏に指示する。
そんなに心配いらない気もするけどなぁ。
「まあ、とにかく気をつけてください」
ミッセル氏はそう言って帰っていった。
『金魚をひとりじめなんてー』
『悪い王子様だー』
きんちゃんとぎょっくんが心なしかぷんすかしている。
金魚はポピュラーな生き物なのにね。
この時点で私はあまり心配していなかった。
だから、翌日帰る前に金魚を補充していこうとミッセル商会に立ち寄った私達を苦渋の表情で出迎えたミッセル氏から『金魚がすべて王家に没収された』と聞かされて仰天した。
「ど、どういうこと?」
「申し訳ありません、お嬢様。まさかこんな手を使ってくるとは……」
ミッセル氏の説明によると、王家からこんな命令が届いたらしい。
曰く、『金魚という未知の生物を売買している者がいるが、これらの生物は誰も見たことがなく危険な生物である可能性もある。よって、王家にてこれらの生物を一時預かり研究し安全性を確認する必要があるため、金魚を持つ家は速やかに供出すること』
商会だけでなく、これまでに金魚を買った人達も金魚を取り上げられているらしい。
「そんな、いくらなんでも、そんなことが認められるなんて!」
いかに王子とはいえ、他の家のものを奪うことが認められるわけがない。こんな横暴が許されるわけがない。
常識的に考えてそう思うのだが、ミッセル氏が言うには第三王子は国王の寵愛深い側妃の子供で、彼の我が儘は国王がすべて叶えてしまうそうだ。なんだそりゃ。
国王にとっては一番愛している子供だが、側妃の実家の家格が高くないため王位継承権は低い。王妃の子供である第一王子と第二王子は頑健で優秀、第三王子に王位が回ってくることはない。故に国王は、不憫がって第三王子の願いはなんでも叶えてやろうとする。なんて馬鹿親父なんだ。迷惑きわまりない。
「アカリア、すぐに領地に帰ろう!」
「待ってお兄様、ディオン様と夫人が心配だわ」
渋るキース様に無理を言って、伯爵家に戻ってもらった。
すると、顔色を悪くしたディオン様が庭の方から出てきた。
「アカリア、すまない。君がせっかく造ってくれたのに……」
庭に駆け込んだ私の目に飛び込んできたのは、浴槽が埋めてあった場所が掘り返された跡だった。
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