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第24話 罪の意識

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「くだらない我が儘で、母様から父様を奪ってしまった。僕はなんて罪深いんだ……そう考えたらもう、この部屋の中で朽ち果ててしまいたくなって……でも、」

 ディオン様は指の間からわずかに目を覗かせて、テーブルの上の水槽を見やった。

「母様が金魚を連れてきてくれて……金魚を見ていたら、「なんて綺麗でかわいい生き物だろう。父様が見たら、きっと大喜びだったろうに」って思って。だから、父様も分も、僕が金魚を世話しなくてはと……」

 夫人がディオン様のために買い求めた金魚は、確かにディオン様の心を慰めたらしい。父の死と罪の意識に取り付かれたディオン様だったが、視界の隅で小さな金魚が生きて泳いでいるのを見ているうちに、少しずつ「生」の世界に意識が引っ張られていったのだろう。
 前の世界でも、アニマルセラピーって奴があったし。やっぱり生き物と触れ合うのは心の健康に良いのだろう。

「それで……庭で何かしているのが気になって……出て行きたかったけど勇気がなくて」
「ディオン……」

 夫人が涙を流してディオン様の肩に手を掛けた。

「ごめんなさい、母様……僕のせいで、父様が……」
「何を言うの……あの人は立派に貴方を守ってくれたのよ!罪の意識など捨てて、貴方を守った父を誇りなさい!」

 夫人は力強くディオン様を抱き締めた。

「あの人のことを思うなら、貴方はあの人以上に立派な伯爵にならなくては駄目なのよ!」

 夫人が言う。ディオン様は抱き締められたまま涙を流した。
 ディオン様の気持ちもわかるが、これは夫人の言う通りだろう。私はレオポルド様のことを知らないし、伯爵家となんの関係もないから口出しは出来ないけれど、レオポルド様は息子のせいだなんて絶対に思わなかったと思う。

 私とキース様は目を見合わせて、二人に気づかれないようにそっと部屋を後にした。後は母子でじっくり話し合うべきだろう。

「もう、大丈夫そうですね」
「ああ。アカリアのおかげだな」

 キース様がそう言って私の頭を撫でたので、私はぱちりと瞬きした。

「私は何もやっていませんが」
「そんなことはない。アカリアと金魚がいなければ、伯爵はいまだに先代への罪の意識に囚われていただろう」

 キース様は確信しているかのような表情で微笑んだ。
 私は納得がいかなかったが、きんちゃんとぎょっくんが『金魚のお手柄ー』『アカリアとぼくたちが頑張ったのー』と得意そうにひらひらしていたので、あえて何も言わないことにした。
 おそらくディオン様は立ち直りかけていて、後は何か些細でもきっかけが必要だっただけなのだろう。
 金魚がそのきっかけとなれたのなら、よかった。

 後はビオトープが完成すれば、私とキース様はゴールドフィッシュ領に帰ることが出来る。予定より滞在がだいぶ長引いてしまったから、お父様が心配していることだろう。
 ミッセル商会では順調に金魚が売れていて、少しずつ平民の間でも「なにやら珍しい生き物を取り扱っているららしい」と噂が出始めている。
 これまでのところ、実に上手くいっている。けれど、それは私が周りの人に恵まれたからだ。自由にさせてくれるお父様がいて、協力してくれるキース様がいて、ミッセル氏はまっとうな商売をしてくれている。
 だから、その人達に恩返しするためにも、金魚を普及して皆が金魚を鑑賞できる世界にしなくては。

 家に帰ったら、また新しく催し物を企画してみようか。
 領民達の間で金魚すくいを流行らせたいが、一日に一つしかポイが出せないので金魚すくい大会を行うのはまだ無理だ。
 でも、いつか絶対に皆を集めて金魚すくい大会を開いてやる!

 金魚すくい名人だった前世の血が騒ぎ、私はぐっと握った拳を突き上げた。



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