47 / 100
第18話 幕間~お兄様の事情~
1
しおりを挟む「おかげ様で、キース様を我が家に迎えられますわ」
彼女がそう言った時、俺は耳を疑った。
我がグラスイズ家は代々「ガラス創造」の能力を受け継いでいる。その能力で美しく精緻な装飾が施されたガラスを創りだしてきた。だから、七人も兄弟がいても『スキル』が発現するなりあっという間に婚約や養子先が決定する。
俺も十六で『スキル』が発現すると、ナリキンヌ商会から婚約の申し込みがあった。
「私、ガラスが大好きなんですの!私のために美しいガラスを創ってくださいましね!」
婚約の顔合わせの際に、豪奢なドレスと大きな宝石を身につけたナリキンヌ商会の子女は目を輝かせて言った。
ナリキンヌ商会に婿入りしてガラス製品を創り出して生きる。グラスイズ男爵家の息子としてそれに疑問など抱かなかったし、婿入りまでにもっと美しいガラスを創れるようになるよう努力しようと思った。
それなのに、俺はどれだけ頑張っても美しい細工が入ったガラスや色のついたガラスを創り出すことが出来なかった。俺が創れたのはなんの飾りもない、色もない、透明な四角形のガラスの容れ物だけ。
最初は「そのうち創れるようになる」と慰めてくれていた両親も、やがて戸惑いの表情を浮かべるようになった。兄弟達は俺を馬鹿にするようになり、「出来損ない」と呼ばれて嘲笑された。
そして、一つ下の弟のグレンに『スキル』が発現すると、ナリキンヌ商会はさっさと婚約者を俺からグレンに変更した。
俺が『ガラス創造』で身を立てることは出来ないと明らかになると、両親は知り合いの男爵家が跡取りを探していると養子の話を持ってきた。
男爵家の跡取りと言っても、ゴールドフィッシュ男爵家は平民の方がマシというくらい貧乏だと噂されている。
実際に、シーズン中も領地に引きこもって、年頃の娘がいるらしいのに夜会にも顔を出さない。
王都で娘の結婚相手を探してやらなくていいのだろうか、持参金がないから一生嫁に出さないつもりなのでは、それならなおさら良い婿を探さなくてはいけないだろうに、とゴールドフィッシュ男爵の娘を気の毒がる声もあった。
俺はその貧乏男爵の娘の婿となって、貧しい領地で過ごすしかないらしい。「出来損ない」の俺にはお似合いかもしれない。
そんな風に思っていた俺の前に、ゴールドフィッシュ男爵とその令嬢は現れた。
ゴールドフィッシュ男爵令嬢のアカリアは、服装は粗末だし痩せこけていたが、明るくはきはきとして笑顔の可愛い女の子だった。俺が居心地悪くしているのに気づいて庭に連れ出してくれる優しさに、王都に行けば彼女を気に入る男がいくらでもいるだろうに、と気の毒に思った。
『スキル』について聞きたいというアカリアは、きっと俺が美しいガラスを創れると期待しているのだろう。
だが、俺はその期待に応えることが出来ない。
そう告げようとした時、グレンが口を挟んできた。
「あら、でしたら私、ナリキンヌ商会の皆様にお礼を言いませんと。おかげ様で、キース様を我が家に迎えられますわ。婚約者の変更をしていただけて本当に良かった」
グレンによって俺が役立たずであることが暴露された後、アカリアはにっこり微笑んでそう言った。
グレンも俺も耳を疑った。でも、アカリアが本気でそう言っているとわかると、俺の胸に何か熱いものがこみ上げてきた。
その直後、何故か手のひらに小魚を載せて大いに慌てるアカリアにガラスを造って水を入れて渡した。
このなんの飾りもない容れ物を見て、素晴らしいスキルだなんて言われたのは初めてだった。
11
お気に入りに追加
91
あなたにおすすめの小説
ポリゴンスキルは超絶チートでした~発現したスキルをクズと言われて、路地裏に捨てられた俺は、ポリゴンスキルでざまぁする事にした~
喰寝丸太
ファンタジー
ポリゴンスキルに目覚めた貴族庶子6歳のディザは使い方が分からずに、役に立たないと捨てられた。
路地裏で暮らしていて、靴底を食っている時に前世の記憶が蘇る。
俺はパチンコの大当たりアニメーションをプログラムしていたはずだ。
くそう、浮浪児スタートとはナイトメアハードも良い所だ。
だがしかし、俺にはスキルがあった。
ポリゴンスキルか勝手知ったる能力だな。
まずは石の板だ。
こんなの簡単に作れる。
よし、売ってしまえ。
俺のスキルはレベルアップして、アニメーション、ショップ、作成依頼と次々に開放されて行く。
俺はこれを駆使して成り上がってやるぞ。
路地裏から成りあがった俺は冒険者になり、商人になり、貴族になる。
そして王に。
超絶チートになるのは13話辺りからです。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
【完結】わたしはお飾りの妻らしい。 〜16歳で継母になりました〜
たろ
恋愛
結婚して半年。
わたしはこの家には必要がない。
政略結婚。
愛は何処にもない。
要らないわたしを家から追い出したくて無理矢理結婚させたお義母様。
お義母様のご機嫌を悪くさせたくなくて、わたしを嫁に出したお父様。
とりあえず「嫁」という立場が欲しかった旦那様。
そうしてわたしは旦那様の「嫁」になった。
旦那様には愛する人がいる。
わたしはお飾りの妻。
せっかくのんびり暮らすのだから、好きなことだけさせてもらいますね。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが
マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって?
まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ?
※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。
※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。
どうやら私(オタク)は乙女ゲームの主人公の親友令嬢に転生したらしい
海亜
恋愛
大交通事故が起きその犠牲者の1人となった私(オタク)。
その後、私は赤ちゃんー璃杏ーに転生する。
赤ちゃんライフを満喫する私だが生まれた場所は公爵家。
だから、礼儀作法・音楽レッスン・ダンスレッスン・勉強・魔法講座!?と様々な習い事がもっさりある。
私のHPは限界です!!
なのになのに!!5歳の誕生日パーティの日あることがきっかけで、大人気乙女ゲーム『恋は泡のように』通称『恋泡』の主人公の親友令嬢に転生したことが判明する。
しかも、親友令嬢には小さい頃からいろんな悲劇にあっているなんとも言えないキャラなのだ!
でも、そんな未来私(オタクでかなりの人見知りと口下手)が変えてみせる!!
そして、あわよくば最後までできなかった乙女ゲームを鑑賞したい!!・・・・うへへ
だけど・・・・・・主人公・悪役令嬢・攻略対象の性格が少し違うような?
♔♕♖♗♘♙♚♛♜♝♞♟
皆さんに楽しんでいただけるように頑張りたいと思います!
この作品をよろしくお願いします!m(_ _)m
この異世界には水が少ない ~砂漠化した世界で成り上がりサバイバル~
無名
ファンタジー
前世の記憶を持って生まれた水瀬蒼(みなせあお)は、世界に数人しか発現しない“水魔法”を持っていた。蒼が生まれた世界には魔法があり、資源も豊かだったが、唯一、「水」が不足していた。戦争で水不足となり、砂漠化が進んでいる世界に、蒼は生まれた。ただ、蒼は村人に奴隷のようにこき使われていて、魔法のことがばれたら、もっとひどい目に合うと思っていた。皆に必要とされる水魔法を持ってはいたが、蒼はその力を隠し、10歳の時、一人村を出る決意をした。これは、水が少ない世界に生まれたチート魔法使いの物語である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる