43 / 100
第16話 ついに、お披露目展示会!
3
しおりを挟む「すっかり空になりましたなぁ」
ミッセル氏が頭を掻いて言う。水槽もほとんど買われていき、残っているのはわずかな和金だけだった。
「では、お嬢様と次期様を宿までお送り致しますよ」
「いえ、私も片づけの手伝いを……」
「あのぅ……」
後片づけを始めようとした時、入り口の方からか細い女性の声がかけられた。
振り向くと、見るからに上品な婦人が佇んでいた。
「本日、こちらで何か珍しい生き物を売られていたとか……招待も受けずに不躾ですが、是非、見せてはいただけないでしょうか」
丁寧ではあるが、威厳を含んだ声音だ。高位の貴族に違いないと考えた私の横で、ミッセル氏が声を上げた。
「これはこれは、失礼ながら、トリフォールド伯爵婦人とお見受けいたします」
ミッセル氏が挨拶したので、私とキース様も慌てて前に歩み出た。
「貴方達は?」
「ゴールドフィッシュ男爵家のキースと申します。お初にお目にかかりますトリフォールド元伯爵夫人」
「キースの妹、アカリアと申します」
頭の中で懸命に記憶を手繰る。トリフォールド伯爵は、確か昨年お亡くなりになって、嫡男が跡を継いでいたはず。
「貴方達も、生き物を見に来たのですか?」
「今日展示した生き物は、ゴールドフィッシュ男爵の領地から寄越して貰ったのです。彼らは取引相手ですよ」
ミッセル氏は残っていた和金の入った水槽を持ち上げて、夫人に見せた。数匹だけ残った金魚が泳ぐのを、夫人は目を丸くして見つめた。
「赤い魚……これはなんという生き物なのですか?」
「金魚です」
「金魚」
夫人がごくりと息を飲む音が聞こえた。
「こちらをいただきますわ。よろしいかしら?」
残りの金魚を全て購入して、夫人は帰って行った。
かくして、金魚のお披露目展示会は大成功のうちに幕を閉じたのだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
89
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる