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第15話 二人きり(+二匹)の夜

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 きんちゃんとぎょっくんは青くなったキース様のこめかみを尾鰭でぴちぴち叩いている。

「し、しかし、男女が同じ部屋などっ」
「義理とはいえ兄妹ですし」

 確かに、年頃の男女が二人で同じ部屋はまずいと思う。でも、キース様はいつも私に優しくしてくれるし、妹としてかわいがられているのがわかる。だから、大丈夫だと思うのだけれど。

「しかし、アカリアは嫁入り前で……」
「私は嫁になんか行きませんよ」
「え、いや、そ、そうか。そうだな……いやでも、こういうことはちゃんと義父上にも話を通してからでなくては」

 キース様はなにやらぶつぶつ呟いていたが、私はベッドにかかった薄い掛布だけ貰ってソファに腰掛けた。

「私はここで寝ますので!キースお兄様はベッドで寝てください」
「……は?」

 粗末なソファはちょっと硬いが寝れないことはない。横になろうとした私を、キース様が慌てて止めた。

「俺がソファで寝る!アカリアはベッドに」
「いえ、私はどこでも寝れるのでお構いなく」
「馬鹿を言うな!女性をソファに寝せて男がベッドで眠れるものか!」

 キース様が紳士だ。
 押し問答の末、キース様がソファ、私がベッドで寝ることになった。キース様が私がソファで寝るなら自分は廊下の床で寝ると言い張ったからだ。

 ベッドに横になって、おやすみの挨拶をして明かりを消す。
 暗くなった部屋の天井の辺りに、きんちゃんとぎょっくんが浮かんでいる。
 それを眺めているうちに、私は前世を思い出す前のことを思い出した。
 私は元々、貧乏領地に生まれたことを不満に思うだけで、自分では何もしていなかった。今だって、私は金魚達や周りの人達に助けられているだけかもしれない。
 だから、私が金魚達とこの世界の人達を繋ぐ手伝いが出来たらいいと思う。
 金魚は、前の世界では多くの人が子供の頃に飼った経験がある生き物だ。小学校の教室にはたいてい金魚がいて、子供達が飼育係を務めていた。お祭りには必ず金魚すくいがあって、子供も大人も楽しめた。
 前の世界で、金魚はすごく身近な生き物だった。この世界でも、それぐらい身近な存在になってくれたらと思う。

「……私、頑張るよ」

 天井を飛び回る金魚達に向けてそう呟いた。

「……アカリアは、頑張っているよ」

 まだ起きていたのか、キース様の声がした。

 私は微笑みを浮かべて、目を閉じた。



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