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第14話 商人は空気でも売る

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「やあ、お嬢様。失礼致しますよ」
「何かあったのですか?」

 馬車から意気揚々と降りてきたミッセル氏に、私は戸惑った。預けた金魚に何かあったのだろうか。
 馬車の姿を見たのだろう、キース様も中庭から駆けてきた。

「なに、問題はありません。今日は例の空気玉のことで相談がありましてね」

 そう言うと、ミッセル氏は馬車の中に声をかけた。すると、中から三十歳前後の男性が姿を現した。

「こいつはうちの商会の工場部門で働いている奴です。「強化」の『スキル』を持っています」

 空気玉を彼の『スキル』で強化すれば、王都まで運べるだろうとミッセル氏は説明した。
 空気玉を創った人物に会いたいと言うので、私は少し躊躇いつつもミッセル氏と彼の部下をエリサさんの元に案内することにした。心配したキース様もついてくるといい、四人で町へ向かうことになった。

「金魚の方は少しずつ噂になっていますよ。どうやら、ロブスター子爵や他の方々が自慢しているようですね」

 お披露目の際に配った方々が周囲の人に金魚を見せているのだろう。徐々に口コミが広がっているようだ。

「私も展示会が楽しみですよ。お嬢様はどんなことを企んでいます?」
「おい、無礼だぞ。アカリアに馴れ馴れしくするな」

 しきりに私に話しかけるミッセル氏に苦言を呈し、キース様が間に割り込んでくる。
 キース様とミッセル氏の慇懃なのか嫌みなのわからない言い合いを聞きながら歩いて、貧民窟に辿り着いた。

「あ、お前!」

 道を走って横切ろうとしていたクルトが私に気づいて、指をさした。キース様の眉がぴくん、と跳ね上がる。

「また来たのか!金魚はちゃんと生きているぞ」

 クルトは笑顔で駆け寄ってきたが、私の前にキース様が立ちはだかった。

「男爵令嬢に対する暴言、子供といえど見過ごすわけには」
「お、お兄様、クルトは口が悪いだけで悪気はないのですわ」

 腰の剣を抜こうとするお兄様を必死に押しとどめている間に、ミッセル氏がするっと横を通り抜けてクルトに話しかけた。

「やあ。私はミッセルという。君のお母さんを紹介してくれるかな?」
「はあ?母さんに何する気だよ!」

 胡散臭い笑顔のミッセル氏に、クルトは警戒を露わに毛を逆立てる。

「お母さんの『スキル』に興味があるだけだよ。心配なら、君が私を見張っているといい」
「おいアカリア!なんだよ、こいつ」
「み、ミッセルさんは悪い人ではないわよ」

 私を呼び捨てにするクルトにいきり立つキース様を抑えつつ、不満そうなクルトに言い聞かせる。

「エリサさんとお話ししたいだけなの。案内してくれる?」
「ふん。母さんに何かしたら追い出すからな!」

 クルトは膨れながらも、先に立って自分の家へ向かっていった。



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