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第12話 我が名はアカリア・ゴールドフィッシュなり
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しおりを挟むこれだけ脅せばもう屋敷に忍び込んだりしないだろう。
ちょっときつく言い聞かせたが、内容は決して大袈裟なんかじゃない。クルトは見るからにしゅんとなってしまい、目をうるうる潤ませた。
「申し訳……、ありませんっ」
エリサさんがクルトの頭を押さえて下げさせるのにも抵抗しない。貴族の怖さは理解したようだが、根本的な問題は解決していない。クルトが盗みを働くのは貧乏が原因のようだけど、私では仕事を紹介したりも出来ないし。
「では、私はこれで」
これ以上は私に出来ることはないので、お暇しようと踵を返した。
その途端、何かを踏んだ。
ぽふっ
「ふえ?」
靴の裏で何かが弾ける感覚がして、驚いた私はすてんっと尻餅ちをついた。
「ああっ、お嬢様!」
エリサさんが慌てて駆け寄ってきた。
私は床を見るが、そこには何も落ちていない。確かに何か踏んだのに。
「クルト!お前はなんてことを!」
「わざとじゃないよ!落としたんだ!」
エリサさんに叱りつけられてクルトが叫ぶ。どうやらクルトが落とした何かを踏んだようだが、床を見渡してみても何もないので私は首を傾げた。
「申し訳ありません、お嬢様」
「いえ……それより、クルト、何を落としたの?何も落ちていないけれど」
「ああ、申し訳ありません。私の『スキル』なのです」
エリサさんが右手をぎゅっと握って、すぐに開いて見せた。すると、手のひらの上に三センチくらいの透明なビー玉のようなものが出来ていた。
「私の『スキル』は周囲の空気を固めて「空気玉」を創るというものです。拳大の大きさまでしか創れませんし、時間が経てば小さくなっていって消えてしまいます。何かにぶつけたり些細な刺激で破裂してしまうし、なんの役にも立たない『スキル』です」
エリサさんは肩を落とした。
「おもちゃがわりに与えていたのに、この子ったら悪いことにばかり使って……」
「はあ……」
私はエリサさんの創った空気玉を摘み上げた。ビー玉そっくりだが重さは感じない。空気の塊ということか。
「……これ、もらってもいいですか?」
私は空気玉を握り締めた。
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