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第11話 威厳があるのだ。えっへん!
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しおりを挟む「このクソガキ!!」
振り向くと、男性が小さな子供を捕まえて殴りかかっているのが見えた。
「人の財布を摺りやがって!」
「ご、誤解だよ!落としたから拾っただけだよ!」
捕まえられた男の子は頭を庇いながら喚いている。
「嘘吐きやがれ!テメェが泥棒だってことは皆知ってんだよ!」
男性が子供を蹴り飛ばしたので、さすがに見過ごせなくて止めに入ろうとした。だが、その私の肩を掴んでおかみさんが止める。
「危ないよ。お嬢様が首突っ込むことないよ」
「でも、あんな小さな子に……」
「あの子は盗みの常習犯なんだよ。母親が病気で貧しいからって、憲兵には突き出さないでやってるんだけどねぇ」
『アカリア、あの子だよ』
『忍び込んできたのあの子だよ』
言われてよく見ると、確かにあの夜にちらりと見かけた男の子に似ていた。
「このこそ泥がっ!!」
「あっ……」
男性が拳を振り上げた。私は思わず駆け寄って男性と子供の間に割って入った。
「暴力はやめてくださいっ!」
「なんだテメェ!どけろ!」
男性に睨みつけられるが、私は男の子を背中に庇ったまま言った。
「小さい子供に暴力を奮ってはいけません。この子には謝らせますから」
私は男の子を振り返って言い聞かせた。
「この方に謝罪しなさい。人のものを盗ってはいけません」
男の子は目を瞬いた。
「なんだよ、お前……」
「謝りなさい」
「関係ないだろ!!」
「いいえ。関係あります」
私はすっくと背筋を伸ばし、男性と男の子の両方に言い渡した。
「我がゴールドフィッシュ家の領地で盗みと暴力が行われるのを見過ごすことは出来ません」
私の言葉で正体がわかったのか、男性がさっと顔色を変えた。男の子は目を丸くして黙っていた。
「お、お嬢様でしたか……いや、これはとんだところを」
急に男性の腰が低くなる。貧乏ではあっても私も貴族の端くれ、これぐらいの威厳は示せるのだ。えっへん!
「さあ、謝りなさい」
男の子に向かって促すと、彼はぐっと目を怒らせて私を睨みつけた。
「きゃっ?」
突然、男の子に何かを投げつけられて、私は思わず目をつぶった。ぱふっ、と音がして、かすかに風が顔にかかった。
「命令するんじゃねぇ!貧乏貴族のくせに!」
男の子は捨て台詞を残して逃げていった。
「お嬢様、大丈夫かい?まったく、貴族様になんてことを!」
おかみさんが顔を青くする。確かに、私だからいいものの、よその貴族にこんな真似をしたら子供であってもただでは済まない。
「大丈夫です。……あの子の名前は?」
「確か……クルトだったかね?母親はエリサっていったはずだよ」
我が家に忍び込んだことも含めて、一度しっかり注意しなくてはならない。貴族に対してあんな態度をとれば間違いなく処罰されること、貴族の屋敷に侵入すれば死罪にもなりうることを言い聞かせなければ。
私はそう決意した。
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