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第11話 威厳があるのだ。えっへん!
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しおりを挟む「大変貴重なものを見せていただきありがとうございます。では、また三日後に」
帰って行くミッセル氏を見送って、私はふうと息を吐いた。
『やったね!アカリア』
『あの人が金魚を売ってくれるね!』
きんちゃんとぎょっくんはミッセル氏の周りをずっと飛び交っていた。どうやら、いよいよ金魚がこの世界に広がることが嬉しいらしい。
「お父様はあの方をどう思われました?」
私が見る限り、ミッセル氏は有能で信用のおけそうな感じだったが、いかんせん私には王都の商会の評判などがまったくわからない。
「どう思うね?キース」
お父様がキース様に尋ねる。
「ミッセル商会はそれほど大きくはありません。どうやら代替わりしたばかりのようで、新しい主の手腕はまだ未知数です。もっと大きい……ナリキンヌ商会やグローバレン商会ならば高位貴族にも顔が利きますが」
キース様は『ガラス創造』の一族に生まれたため、商会のことに詳しいようだ。
「今のところ悪い評判も聞きませんが、あの男を信用出来るでしょうか?」
「ふむ。抜け目のなさそうな感じではあったが、悪人とも思えないがな」
私もお父様と同意見だ。ミッセル氏は悪い人には見えなかった。もしもあくどい商売に手を染めていたり儲けのためならなんでもするような人物なら、貧乏男爵家の足下を見て居丈高に向こうが有利な契約を押しつけてきたかもしれない。
『売らないの?』
『売らないの?』
きんちゃんとぎょっくんが私の頭をつんつんしてくる。
もうちょっと待ってね。人間の世界にはいろいろあるのよ。
ミッセル氏の申し出については夕食後にまた話し合うことにして、キース様はお父様から領地経営を教わるために執務室に向かい、私は夕食の支度のために買い物に出た。
えっちらおっちら町まで向かうと、きんちゃんとぎょっくんが頭をつんつんしながらついてくる。
『売ろうよー』
『広めようよー』
もー、この金魚達は。
「慎重にならなくちゃ。信用の出来ない人に金魚を預ける訳にはいかないでしょ」
『むー』
『ぶー』
まったく、せっかちさん達め。
「あら、お嬢様。今日は人参が安いよ」
顔見知りの八百屋のおかみさんが声をかけてくれる。ジャガイモと干し肉はまだ残っていたから、人参とタマネギを買ってシチューにしようかな。
人参を買っていると、頭の上できんちゃんとぎょっくんが『あ』と声を上げた。
その直後、男性の怒鳴り声が響いた。
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