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第7話 なきゃないでいいけれど
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しおりを挟むロブスター子爵令嬢ジャリアーナは鬱々として溜め息を吐いた。
「お母様の親戚だからって、どうしてあんな貧乏男爵家に行かなくてはならないの?」
「これ、ジャリアーナ!口を慎みなさい」
母に叱られるが、ジャリアーナは反省の色なく口を尖らせる。母親の親戚のゴールドフィッシュ男爵とその娘には何度か顔を合わせたことがあるが、彼らの装いといい屋敷といい、とても貴族とは呼べない困窮ぶりだ。むしろ彼らより一部の平民の方が遙かにマシな暮らしをしているだろう。
「あんな貧乏男爵家を継がなきゃならないだなんて、養子にされた方もお気の毒ね」
「ジャリアーナったら……でも、そうね。いずれはアカリア嬢の婿にするつもりで引き取ったんでしょうけれど」
「そうすれば嫁に出す持参金も要らないからな」
ジャリアーナを窘めはするが、母も父も内心は同意見なのだ。
「あーあ。せめて綺麗なお花の咲いた庭でもあれば少しは楽しめるのに」
庭師を雇う余裕もないのだろう、ゴールドフィッシュ男爵家の庭は雑草が生い茂り放題だ。
「まあ、養子の代になれば付き合いも切れるだろう。それまでの辛抱だよ」
「私はその前にお嫁に行くからいいもん」
ジャリアーナは紫のドレスを眺めて頬を膨らませた。お気に入りの赤いドレスを着て来れなかったのも、憂鬱気分を増大させる原因だ。
ゴールドフィッシュ男爵令嬢はきっと赤いドレスを着るだろうから、招かれる側として同じ色は避けたのだ。何故ドレスの色がわかるかというと、ジュリアーナの誕生日に招いた際におそらく古着の赤いドレスを着ていたからだ。新しいドレスを買う余裕はないだろうから、今日も同じドレスに違いない。
「はあ~……つまらないなぁ」
ジュリアーナはもう一度溜め息を吐いた。
「ようこそいらっしゃいました。皆様」
オンボロ屋敷の前でゴールドフィッシュ男爵がにこやかに客人を出迎える。
「おや、アカリア嬢と次期男爵殿はどちらです?」
「ええ。こちらです。是非、皆様にご覧に入れたいものがありまして」
ゴールドフィッシュ男爵は一同をテラスへと案内した。
何か趣向でも用意しているのだろうか、けれど、どうせ大したものではないだろう。
ジュリアーナはそう思ったし、他の皆も同じ気持ちだった。
そして、彼らの前に、見たこともない幻想的な光景が広がった。
***
ロブスター子爵の名前はおそらく「ザリガーニ・ロブスター子爵」
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