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第5話 音もなく忍び寄る死の気配
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しおりを挟む「そうか。しかし、この小魚をアカリアが『スキル』で生み出しているというのは秘密にした方がいいね」
お父様が少し眉根を寄せて、難しい顔で腕を組んだ。
「珍しい『スキル』の持ち主というのは狙われることもある。金魚が売れるとなれば、アカリアを誘拐して儲けようと企む輩も出てくるだろう」
なるほど。私にしか生み出せない生き物なのだから、私を誘拐してしまえば元手がかからず金魚を売りさばける。
「気をつけますわ」
「うむ」
お父様は私の身を案じてくれているだけで、商売自体には反対ではないようだ。良かった。
「実は、家にも和金と出目金がいるのです。帰ったらお見せしますね」
「でめきん、とは……?和金とは金魚のことだよね?」
「和金はこの金魚のことです。これぐらいの大きさのものは小金と呼ぶこともあります。出目金はこれよりもう少し大きくて目が丸く飛び出ている種類です」
領地に帰り着くまで、私はお父様に熱心に金魚の説明をした。お父様も興味が出てきたようで、出目金を早く見たいとそわそわしていた。
私もうきうきとしてきて、屋敷に着いて馬車を降りるやお父様の手を引いてテラスに置いた桶の元に案内した。
「こちらです!あの桶に……」
その時、私は確かに奴と目が合った。
奴の狙いが何か、私は瞬時に理解した。
獲物を狙う獣の目がぎらぎらと輝き、音もなく忍び寄る死の気配に桶の中の金魚達がくるくると逃げまどっているのがわかる。
その、死の鉤爪が今まさに桶の中に振り下ろされんと――
「そぉおぉぉっぉぉいいっ!!」
間一髪、私はヘッドスライディングで滑り込んでその獣を捕まえていた。
「アカリア!?」
突然、奇声を上げてテラスに突っ込んだ娘に、お父様が愕然とする。ごめんなさいお父様、貴族令嬢にあるまじきヘッドスライディングをお見せして。でも、危機一髪だったのです。
「ふにゃああっ!ふぎゃっ!」
私の手の中で、ふわふわした獣――猫が暴れる。
桶の金魚を狙ってやってきた不届き者だ。
『ねこだよ!ねこ嫌い!』
『いやー!いやー!』
私の頭の上できんちゃんとぎょっくんも恐慌状態だ。やはり猫は金魚の天敵らしい。
きんちゃんとぎょっくんが騒ぐので、私は猫をテラスの外へ逃がしてやった。
ぴんぽんぱんぽん♪
『おめでと!レベル7になったよ!一日に三十匹までの和金、二匹までの出目金とらんちゅうが出せるようになったよ!気をつけてよ!ねこ!』
『付与能力「危機察知」が使えるようになったよ!金魚に危険が迫ると胸騒ぎがするようになるよ!テラスなんかに置いておくから、ねこに狙われたんだよ!ばかー!』
『ばかー!』
うう。ごめんね。狙われた金魚達の代わりにきんちゃんとぎょっくんが私を叱ってくれるのね。
レベルが上がりつつ金魚達に説教されて、私は反省しきりだった。
その後はお父様に出目金を紹介し、キース様のガラスの容れ物を桶の横に置いた。ガラスの容れ物は日の光を浴びてキラキラ輝き、中で泳ぐ金魚が赤い宝石のように見えた。
「なるほど。綺麗なものだな」
お父様はしきりに感心して、黒出目金に「ブラキアン」という名前を付けていた。
気に入ったのかしら?
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