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第4話 ガラスの少年 と、うっかり出しちゃった少女
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しおりを挟む「……弟がすまない」
庭に足を踏み入れると、キース様が申し訳なさそうに謝った。
「謝ることなどございませんわ。それより、キース様に『スキル』のことでお聞きしたいことがあるのですが」
私がそう口にすると、キース様の顔がぎっと強ばった。
「……すまない。君はきっと『ガラス創造』で綺麗なコップやゴブレットを期待しているのだろうが、私は……」
「出来損ないなのさ、兄上は!」
キース様の言葉を遮って、グレンがそんなことを言う。
あら。なんでこいつまで庭に来てるのよ。キース様だけでいいっつの。
「見てろ」
グレンは手のひらを上に向けたと思うと、次の瞬間にはごてごてと飾りのついた紫色の色ガラスのコップを創り出した。
「どうだ!僕はこんな精緻な美しいガラスを創り出すことが出来るんだ!だからこそ、ナリキンヌ商会も娘の婚約者を兄上から僕に変更したのさ!」
え?
私はキース様の顔を見た。彼は悔しそうに唇を噛んでいるが、弟に何も言い返そうとしない。
なるほど。つまり、キース様は一家の中では落ちこぼれ扱いされているのか。『ガラス創造』の『スキル』持ちの一家の中で、『スキル』を得られなかったのか、上手く『スキル』を使えないのかで肩身の狭い思いをしているのだろう。
正直、ちょっと残念だ。
でも、
「あら、でしたら私、ナリキンヌ商会の皆様にお礼を言いませんと」
私はグレンに向かってにっこり微笑んでみせた。
「おかげ様で、キース様を我が家に迎えられますわ。婚約者の変更をしていただけて本当に良かったと、ゴールドフィッシュ男爵令嬢が感謝していたとお伝えください」
言外に「お前じゃなくて良かったわ」と伝えてやると、グレンは鼻白んだ。
「――ふんっ!無能を養子にして後悔するなよ!」
捨て台詞を残して立ち去るグレンの背中に、私はべーっと舌を出した。
その拍子に、空中に小金が一匹、ぽんっと現れた。
「え?」
私は咄嗟に手のひらを突き出して小金をキャッチした。
私の手のひらにぽとっと落ちた小金が、ぴちっ、と跳ねる。
「え?なんで?」
『きみの感情が高ぶったからだよ』
『うっかり出しちゃったんだね』
ええ?感情が高ぶるとうっかり金魚出しちゃうの私?
『まだ『スキル』を完全にコントロールできていないんだよ』
『気をつけないとダメだよ』
きんちゃんとぎょっくんがそう言うけど、私はそれどころじゃない。手のひらにはぴちぴちと跳ねる金魚がいるのだ。水!水!
「ききき、キース様!!水!水ください!水!」
「え?水?何故……その小魚は一体……?」
「私がうっかり出してしまった小魚です!水!」
「うっかり小魚を……?どういうことかわからないが、ちょっと待ってくれ」
取り乱す私を見て、キース様は両手の平を胸の前に出して目を閉じた。そのまま、何かを祈るように念じると、彼の手のひらの上に小さな四角形の容れ物が現れた。
キース様は庭の隅の天水桶まで駆けていって、水を汲んで戻ってきてくれた。
私はキース様が生み出したそれに小金を入れた。水を得た金魚はふよふよと泳ぎだした。
目の高さにそれを掲げて、キース様は不思議そうに首を傾げる。
「これは……なんという魚なのだ?」
四角形の、小さな容れ物の横から底から、しげしげと金魚を眺める。
なんの飾りも、色も着いていない、ただのガラスの容れ物は、金魚の泳ぐ姿をはっきりと見せてくれる。
ぴんぽんぱんぽん♪
『おめでとう!レベルが6に上がったよ!一日に二十匹までの金魚を出せるようになったよ!』
『レベルが6になったので付与能力「餌管理」が使えるようになったよ!常に適切な量の餌を与えることが出来るよ!』
私はキース様のガラスの容れ物を持っていない方の手をぎゅっと握り締めた。
「―― 素晴らしい『スキル』ですっ!!」
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