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第1話 貧乏男爵令嬢、前世を思い出し和金に励まされる。
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しおりを挟む『とりあえず、コップに水を汲んできてよ』
金魚がそう言うので、私はそれに従った。水を汲んで戻ってくると、今度はそのコップに手をかざして念じるように言われる。
為すすべもなく金魚の命令に従うと、何もない空間にぽんっと小さな金魚が現れ、そのままコップの水の中にぽちゃりと落ちた。
「……え?何、今の?」
突然、目の前に現れてコップの中をすいすい泳ぐ小さな金魚――小金に動揺していると、空飛ぶ金魚が耳元で言った。
『きみは目覚めたばかりだから、まだ一日に一匹しか出せないよ』
「目覚めたばかりって……ちょっと待って!これってもしかして私の『スキル』ってこと!?」
この世界には『スキル』というものがある。生まれながらに与えられた特別な才能というか、まあ、魔法みたいなものだ。
例えば、『剣技』っていう『スキル』だと、めちゃくちゃ強い剣士になれる。『怪力』っていう『スキル』もあるし、攻撃系以外だと『探査』とか『回復』とかも聞いたことがある。それから、創造系と呼ばれる種類もある。『岩創造』っていう『スキル』の人は、何もない空間に岩を生み出すことが出来るのだ。
『スキル』は誰もが目覚める訳ではなく持っている人と持ってない人がいるけれど、貴族の多くは『スキル』持ちだ。だいたい十五、十六の年齢で目覚めることが多い。
私も出来ればお金を稼げそうな『スキル』が目覚めないかなぁと思っていたんだけど……
私の『スキル』、金魚を出すだけ!?
なんで!?金魚を道連れにしたから、その天罰!?金魚の呪い!?
私の『スキル』は『きんぎょ創造』なの!?
『今のきみはレベル1だから、一日一匹の和金を出すことしか出来ないよ。もっとレベルが上がれば出目金も出せるようになるよ。頑張れ!』
「和金に出目金を出せるように頑張れと応援される私!どうなってんの!?」
普通、異世界転生ってもっときらびやかな乙女ゲームのヒロインか悪役令嬢に転生したりして恋愛したり婚約破棄したり断罪回避したりざまぁしたり俺tueeee!したりするもんじゃないの!?
貧乏な男爵家の領地のオンボロ屋敷で和金達に応援されながら金魚を生み出す異世界転生ってなんなのよ!?
なんなの?前世で金魚すくい名人だった私への罰?金魚すくい過ぎて金魚の恨みでこんな『スキル』を与えられたの!?
金魚すくい過ぎたら異世界に転生した時に金魚を創造する能力が与えられるよ、って誰も教えてくれなかったもん!教科書に載ってなかった!じゃあ、金魚すくい業界で名を馳せるあの人もあの人も、死後は異世界転生して『きんぎょ創造』!?
きんぎょきんぎょ言い過ぎて訳わかんなくなってきた!
『大丈夫!きみならきっとすぐに、らんちゅうも出せるようになるさ!』
「本当!?オランダシシガシラとかも出せるようになる!?」
『地道にレベルをあげていけば大丈夫さ!一緒に頑張ろう!』
ひたすら混乱する私の頭の周りを漂う金魚達が、そう励ましてくれたのだった。
応援ありがとうございます!
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