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110、北へ帰宅
しおりを挟む学園中の女子に致命傷を与えた我がお兄様の告白のせいで、馬車に乗っていた間の記憶がない。
気づいたら領地に着いていた。
「ヒョードル。レイシール。無事に帰ってきて何よりだ」
「二人とも、お疲れさま」
お父様とお母様がにこやかに迎えてくれる。
「お父しゃまぁぁ~っ!! お兄様が、お兄様がっ、次期公爵夫人はフレデリカ様で麗しの君にお兄様が公衆の面前でけしからんことをぉぉ氷の貴公子が顔面に物言わせて美貌で学園中の女子を惑わせ麗しのフレデリカ様を氷の色香で狂わせようとうわぁぁぁぁ」
「落ち着きなさいレイシール! 何があった!?」
私の横で涼しい顔をしているお兄様が全部悪いんですーっ!!
私の支離滅裂な訴えを聞き、お兄様本人からも話を聞いたお父様とお母様は手放しで喜んだ。
「では、さっそくエヒメン家へ婚約の打診をしよう!」
「フレデリカ嬢といえば、まるで騎士のように誇り高く凛々しい令嬢と噂に聞いているわ! 学業も非常に優秀とか」
二人ともいそいそとエヒメン家への婚約を申し込みに行ってしまった。
私も自室に行き、着替えてから久しぶりの我が家のベッドに倒れ込んだ。
「はあ……氷の貴公子が凛々しき麗人に愛を……はーん! ロマンチックー!!」
フレデリカ様は戸惑っていらしたけど、嫌がってはおられなかった。十分に脈があると思う。お兄様、頑張って!!
「うふふ……北海道が埼玉に嫁ぎ、愛媛が北海道に嫁いでくる……三国同盟だわ」
私はベッドの上で「うひひ、うはは」と笑いながらバタバタした。
フレデリカ様は優秀だし、卒業したらそれほど間を置かずに結婚できるのではないかしら。公爵夫人としての勉強もフレデリカ様なら何も心配いらないし。
私とジェンスの結婚は私が学園を卒業してからになる。まだ二年以上も先なのだ。
そう考えて、ふと自分がジェンスとの結婚を完全に受け入れていることに気づく。
最初は救った凍死要員としか思っていなかったけれど、ジェンスは長期休暇の度に私の元を訪れて、私のご機嫌を取ったり使用人と戦ったり雪かきを手伝ったりしてくれた。常に私のことを好きだという顔をして、可愛い好きと口に出して。
ジェンスと出会ってから学園へ入学するまでの間はまさに上記の通りだった。いつの間にかほだされてしまった。
フレデリカ様も、早くお兄様にほだされてしまいますように。
「うふふ……」
仰向けに寝転がったまま、私は笑いをこぼした。
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