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109、氷の貴公子お兄様無双!
しおりを挟むいつもより早く終業式を迎え、生徒達は講堂で一刻、別れを惜しんでいる。
「ティアナ、マリヤ。手紙を書くわね」
「ええ。都合がついたら遊びに出かけましょう」
「レイシール様、ごきげんよう」
私もティアナ達との別れを惜しんでから、ジェンスの元へ駆け寄った。
「ジェンス。北に来れる日が決まったら連絡してね? 早く来てね」
「くぅ……っ! 婚約者のおねだりが可愛い……っ!」
腕にくっついて上目遣いで言うと、ジェンスは天井を見上げて悶絶する。
「あら? お兄様はどこかしら」
「そう言えば、いないな」
学園一目立つと言っても過言ではない美貌の貴公子が見当たらない。
先に馬車に行っちゃったのかしら。それとも、忘れ物とか?
ジェンスにくっついたままアルベルト達に挨拶をしていると、にわかに講堂の空気がざわめいた。
何事かと首を巡らすと、講堂の入り口に立つ人物に皆が注目していた。
「お兄様?」
そう。そこに立っていたのは我が兄、美貌の氷の貴公子ヒョードル・ホーカイド。
彼がその手に可憐な青い花束を持ち、颯爽と歩むのを誰もが息を詰めて見守った。
お兄様は堂々とした態度で歩みを進めると、迷いのない流れるような動作である人物の前に膝をついた。
花束を差し出し、お兄様が口を開く。
「フレデリカ・エヒメン嬢。君に婚約を申し込みたい。ヒョードル・ホーカイドはフレデリカ・エヒメンに誓いの花を捧げる。受け取ってくれないか」
凛とした声が、静まりかえった講堂に響いた。
「……わ、私っ!?」
沈黙の後で、フレデリカ様が狼狽えた声を上げた。
「な、何を言っているんだ! 何故、私などに……冗談なら、」
「冗談ではない」
わたわたしているフレデリカ様に、お兄様は力強く言う。
「俺は本気だ」
「ば、馬鹿なことを……私のような、背も高くて力も強い、男のような女などにそんな……」
フレデリカ様はいつもの冷静さが嘘のように取り乱している。無理もない。お兄様、不意打ちだ。
「一年生の頃から、君のことは好ましく思っていた。努力を怠らず、常にまっすぐに立つ君の姿は見ていて気持ちよかった。その爽やかで潔い性格も好きだ」
「はっ……わわ……」
「好意が愛に変わったのは、朗読会の時だ。舞台に立った君は誰よりも輝いていて目を離せなくなった」
ええー! あの朗読会の時にそんな大変なことが起きていたなんて!
私、グッジョブじゃない?
てゆーか、
お兄様ーーっ!!
何してくれてんの、何してくれてんのーっ!!
ひざまずいて求婚だなんて、お兄様がそんな情熱的な方だったなんてーっ!!
うああああっ、美貌の氷の貴公子が乙女の憧れの麗人に愛を乞うだなんてなんて素敵すぎるシチュエーション!!
胸が高鳴るーっ!! 講堂中の女の子が胸を押さえて息も絶え絶えに悶絶しているーっ!! かくいう私も胸が苦しいーっ!!
ていうか、お兄様がフレデリカ様を、なんて、全然気づかなかったわ!!
はっ! てことは、フレデリカ様が次期ホーカイド公爵夫人!! 私のお義姉様にっ!?
うわあああ最高ーっ!!
フレデリカ様なら文句なしっ!! さすがお兄様!! 見る目があるぅぅっ!!
「ちょ、ちょっと待ってくれ。私は、伯爵家の者だ。妹君のレイシール嬢が侯爵家へ嫁ぐというのに、兄であり公爵となる貴方が私などを……」
「俺は誰よりも君こそが公爵夫人にふさわしいと思っている。フレデリカ嬢」
お兄様はそっとフレデリカ様の御手を取り、手の甲に口づけた。
「「「きゃああああーっ!!!」」」
少女達の絶叫が響いた。かくいう私も叫んだわ。
「はあはあ……んはぁ……ジェンス、ジェンスぅ……お兄様が、フレデリカ様にぃ……けしからん」
「落ち着くんだレイシー!」
崩れ落ちそうになりながら縋りつく私を、ジェンスが抱き留めてくれた。
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