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105、現実主義

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「そういえば、どうして寮に入らなかったの?」

 食後のお茶を飲みながら、私はニチカに気になっていたことを聞いてみた。
 ゲームのニチカは確か寮に入っていたはずだ。特待生だから寮費は無料になるはずだし、何故、寮に入らなかったのかわからない。

「ああ。だって、お隣のおばあちゃん、足が悪いからいつも私が買い物してあげてるんだもん。寮に入ったらおばあちゃんが困るじゃない」

 お前……お前!

 本家ヒロインよりヒロインらしい行動だな!

「まあ、家賃ぐらいバイト代でどうにかなるし。現実に生きていた頃より楽な生活よ。食べるものがあるだけでも幸せだし」

 お腹がいっぱいになったニチカはごろん、と横になって腹をさすっている。牛になるぞ、牛に。

「ねえ、攻略対象にはもう興味がないってのはわかったけど、王女だってのはどうするわけ?」

 ヒノモント家の血を引く由緒正しい姫君でしょうが。

「はっ。あんた、何言ってんの? 一介の日本人にいきなり王になれって言ったってうまくやれるわけないでしょうが。だいたい、この国は四つの公爵家でうまく回ってんだからこのままでいいのよ。下々の者はまともな政治さえしてくれれば上に立つ人間なんか誰だってかまわないのよ」

 うーん。確かに、私も前世では政治とか興味なかったけれど。

「ぶっちゃけ、国民なんて、善良だけど無能で国を衰退させる国王より、平和で食うに困らない暮らしを授けてくれる魔王の方を支持するわよ。今頃、ヒノモント家の子孫なんか出てきたら無駄にごたごたするだけよ。ゲームじゃあっさり終わってたけど、現実じゃ死ぬほど大変よ」

 お前……最初の印象からお花畑ヒロインだと思っていたら……割とドライなおねーさんじゃねーか。

 まあ、話を聞くに平成生まれの私なんかより遙かに過酷な時代を生きていたようなので、酸いも甘いも噛み分けているのかもしれない。

「でも、リリーナがうろうろしてると危なっかしいのは確かね。いきなり燃やそうとしてくる危ない女だし」

 ニチカはそう言って「よっこら」と起き上がった。

「例え捕まえることが出来たとしても、オプション使われたらあっさり逃げられるんじゃない?」
「そうよね……」

 私は腕を組んでうーんと悩んだ。どう考えてもオプションの存在が厄介すぎる。運営もなんだってそんな余計なことを。確かに悪用しない善良な人間が持てば、助かる能力だけども。

「それに、結局リリーナの目的がはっきりしていないわ。誰かと付き合いたいのか、それとも他に目的があるのか……」

 四大公爵家の誰かと結ばれたいにしては、それらしい行動をとっていないような気がするのよね。一時はお兄様達の周りをうろうろしていたらしいけれど、今は別に近寄ってもこないし。

 出来れば、話し合いでなんとかなればいいと思うけれど……それは難しいんだろうな。


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