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93、不気味
しおりを挟むリリーナ・オッサカーを捕らえる。
ということは、レオナルドはリリーナが何かをしたと確信しているということだ。
でも、糾弾できるほどの証拠を得られていないということだろうか。
「それは……もちろん協力するけれど、レオナルド様や、ガウェイン様達が調べているのなら、すぐに証拠がみつかるんじゃないの?」
「それが、そうではないのです」
クララはふるふると首を横に振った。
「我々「西」の者は、長い間、あの不気味な女に苦しめられて参りました」
不気味な女って……
公爵家と血の繋がりのある伯爵令嬢に対する言葉じゃない。
「いったい、何があったの?」
「ここで話すことは出来ません。長いし、取り留めのない話になりますから。ただ、リリーナも昔は普通のーー心優しい女の子だったのです。でも、十歳以降、人が変わったようになりました」
十歳。
私が前世を思い出したのも、十歳の時だった。
リリーナも十歳で前世を思い出したということか。
「詳しい話は、またいずれ。今夜のところは、伝言をお伝えするのみで失礼させていただきます」
クララはぱっと身を翻すと、縄梯子を伝ってするすると下に降りていった。素晴らしい身軽さだ。
地面に降り立ったクララが縄梯子を回収して素早く去っていくのを見送った後で、私は部屋に戻り窓を閉めた。少し体が冷えてしまっている。
「西の者は長い間、苦しめられてきた、か……」
元は心優しい女の子だったリリーナに、とんでもない悪女の記憶がよみがえってしまったということだろうか。
この世界に、私とニチカとリリーナという、三人の転生者がいる。
クララの話しぶりからすると、まるでリリーナが「西」を牛耳っているような言い方だった。
リリーナには何か、私の知らないこの世界の知識があって、それを利用しているのだろうか。
いや、何かおかしい。
私が階段から突き落とされた時に誰もリリーナを捕まえなかったこと、あれが気になる。リリーナは平然と私を見下ろしていた。つまり、リリーナには自分が捕まえられないという確信があった訳だ。
そういえば、火事になる前に……ニチカが言っていなかったか? 生徒会室で私が呼んでいると聞いた、と。リリーナに。
それを思い出して、私はぶるっと肩を震わせた。
リリーナが、ニチカと私を焼き殺そうとしたということ?
まさか、なんでそこまで……そこまで恨まれるようなことをした覚えはないし、そこまでする理由がわからない。
わからないことだらけで頭がぐるぐるして、私は気分が悪くなった。
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