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59、いももちと婚約者

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 多少、ぎこちない空気は残しつつも、夜会は滞りなく終了した。

 私はジェンスとお兄様にがっちりガードされ、フレデリカ様やクラスメイトの方々も心配して声をかけてくれた。その中に紛れて、近寄ってきたレオナルド・ヒョーゴンが、こっそりと「オッサカーに気をつけろ」と耳打ちして去っていった。



「ふっ……どうやら、ニチカの前にオッサカーを片付ける必要がありそうね……」

 明けて翌朝、目を覚ました私は寝台の上でまるきり悪役っぽい台詞を呟いた。

 とはいえ、ガウェイン・オッサカーの仕業だという証拠もない。それに彼には動機もない。
 私を陥れたところで別にガウェインが得することもなさそうだし。

 うーん。ことは薬物がらみだし、子供が変に首突っ込まない方がいいわよね。お父様達に任せちゃおう。

 だって、私、か弱い令嬢だもん。君子危うきに近寄らず。
 私が見た目は子供頭脳は大人な小学生だったり名探偵の孫だったりしたなら、じっちゃんの名にかけて犯人はいつもお前だ!って出来たかもしれないけどね。

 だいたい、社交で忙しいわ。学園が始まるまでにいくつかお茶会やガーデンパーティーをこなさないとならんのよ。北の公爵からの密命もあるし。

 まずはお兄様とティアナをくっつける作戦でも立てようかしら。
 いえ、その前に、お兄様に想い人がいないかどうかを確認しなくちゃね。
 ふふふ、腕が鳴るわ。

「お嬢様、おはようございます。楽しそうですが、どうなさいました?」
「ふふふ……悪巧みをしているのよ。まずは手始めに厨房に忍び込んでいももちを作ってやろうかしら」
「わあ! お嬢様のいももち大好きです」

 恐るべきいももち密造計画に共犯者アンナを引き込んで、私は不敵に笑った。

「お兄様、おはようございます」
「ああ、おはようレイシール」

 お兄様と一緒に食堂へ向かい、朝食の席に着く。お父様もお母様もいつも通りで、薬の件はまったく話題に出されなかった。

 朝食の後はアンナを従えて厨房へ乗り込み、大量のいももちを作って料理長を恐れおののかせてやったわ!

 ジェンスにも持って行ってあげよう。前に作ってあげた時はめちゃくちゃ喜んでたし。というか、あいつは私の作ったものならなんでも喜ぶけど。

 そういえば、ジェンスって私のどこがそんなに好きなのかしらね?
 可愛い子は他にもいっぱいいるし、ジェンスだってそこそこイケメンで優秀なんだからモテそうな気がするけど。

 む。なんか胸がもやっとするなぁ。いももち作りすぎて胸焼けしたかな?



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