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41、私、北海道だし。
しおりを挟む立夏祭も終わり、もうすぐ六月。
私は寮の部屋でアンナに用意してもらった絹糸を選びながら鼻歌を歌っていた。
「お嬢様、そんなに楽しそうになさらないで……ううっ」
何故かアンナが悔しそうに唇を噛む。
最近、ジェンスの重要性に気付いたので、ちょっと優しくしようと思って。刺繍を入れたハンカチを贈りたい、と言ったらアンナが「お嬢様が馬の骨の毒牙に……」とさめざめと泣き出したのだ。
毒牙に、って……婚約者なんだけど。
刺繍の図案はどうしようかな。ジェンスだから、Jって入れようか。それと、うーん。男物だから花よりも何か別の……埼玉だから、ネギ?
却下。
ジェンスの好きな物を入れようか。ジェンスの好きなもの……私か。
うーん。
あ、そうだ。雪の結晶にしようかな。私、北海道だし。
Jの字を濃い青で、その周りに大小の雪の結晶を薄い青で刺繍しよう。
どうせだったら自分用のも作ろうかな。
「よーし、やるぞー」
「うう……お嬢様……」
私は意気揚々と針に糸を通したのだった。
さほど難しい図案でもないので、刺繍はすぐに出来上がった。よしよし、せっかくだからカードでも書いて付けようか。
「ん?」
鞄の中を漁ったが、ペンがみつからなかった。
あれ? もしかして、教室に忘れてきたのだろうか。
私は窓の外を見た。すっかり夜で、外はまっくらだ。もう学園の方には誰もいないだろう。
どうしよ。取りに行こうかな。明日でもいいけど……
うん。まだ寝るには早いし、取りに行こう。
アンナにみつかると止められるだろうから、いない今のうちに。
私はそっと寮の部屋を抜け出し、一人で夜の校舎に向かった。
アンナが心配するから、急いで戻ってこないと。
小走りで廊下を走り、寮の外に出た時だった。門の方からどさっと音がして、黒い影が蠢いた。
私は思わず足を止めてそちらを見た。黒い人影がふらふらとこちらへ歩いてくる。
どうやら門を乗り越えて侵入したらしい。不審者だ。
どうしよう。悲鳴をあげようか。
ここで声を上げて、誰かに聞こえるだろうか。走って逃げた方がいいのか。
一瞬、逡巡して後ずさったその時、雲が晴れて月明かりがさーっと差し込んで人影を照らし出した。
「あ、あなたは……」
人影もこちらに気付いて顔を上げた。
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