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19、不吉な空間

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「それでは、新たに監督生となった皆を歓迎する」

 帰りてーぇぇえ。

 アルベルトの挨拶に皆がわーっと拍手する中で、私は一人だけ死んだ目をしていた。
 監督室に集められた九人の監督生。三年生の三人は嫌というほど知っている。

「俺は三年Aクラスのアルベルト・トキオートだ。よろしく」

 言わずとしれたアルベルト野郎。

「俺はBクラスのヒョードル・ホーカイドだ」

 見慣れた美形のお兄様。

「ジェンスロッド・サイタマー。レイシールの婚約者だ!」

 余計なことを言うなセクハラ野郎。

 続いて二年生が自己紹介を始める。

「俺はガウェイン・オッサカー。よろしくな」
「僕はナディアス・ナワーキオです」

 出たよ。
 関わりたくなかったなぁ。大阪と沖縄。

「ヒューイ・ギフケン。Aクラスだ」

「そのままだな」

 思わず呟いてしまった。

「レイシール嬢、なにかな?」
「あー、いえいえ。何でもないです」

 ギフだけだと語感が悪いとスタッフは思ったんだろうか。県付きだ。そういうこともあるのか。
 考えてみればトキオートも都がついてるといえるしな。

「では、一年生の皆。自己紹介をしてくれ」

「ルイス・ミヤッギ」
「ティアナ・カーナガワと申します。光栄ですわ」

 クソ義弟になりそこねたルイスが愛想のない名乗りをし、赤毛のツンとした美少女がふわりと挨拶する。

「レイシール・ホーカイドっす……です」

 やる気がなさすぎるのがあからさまに態度に現れそうになって、私は背筋をただした。
 攻略対象四人と元凍死要員二人が集まった不吉な空間ではあるが、選ばれた以上はちゃんと監督生の仕事をしなければ。

「まずは来月に行う朗読会の準備だ。これは一年生三人にメインで企画してもらいたい」

 うわあ、早速いやだ。
 もちろん、ゲームでも朗読会はあった。ニチカが攻略対象ときゃっきゃうふふしながら準備をして仲を深めるんだよね。アルベルトの言葉通り、一年生が主導で企画するということでルイスと何度も話し合って仲を深めていくのよ。
 突っ込みポイント1。「ルイスとばっか話し合ってるけど、ティアナとは協力しなくていいのかよ」

 そんで、各学年から二人、朗読者を選ぶんだけど、一人は公爵令嬢という地位を使ってしゃしゃり出てきたレイシール・ホーカイドになる。しかもオオトリ。
 もう一人は、中庭でひっそり本を読んでいた大人しい女生徒Aをみつけたニチカが強引に朗読者に選ぶ。女生徒Aは「自分には無理」と断るんだけど、ニチカは「勇気を出して!」とか励まして半ば無理矢理決定しちゃうんだよね。
 突っ込みポイント2。「本を読むのが好きだからといって、人前で朗読したいとは限らない」

 しかも、女生徒Aが読もうとしていた詩が地味だからと、ニチカが偶然図書室でみつけた素敵な詩を読むようにごり押しする。
 突っ込みポイント3。「好きな詩を読ませてやれよ」

 ニチカがごり押ししているのを見かけたレイシールが「女生徒Aが読もうとしている詩は皆が慣れ親しんでいるものだから朗読会にふさわしい。彼女が英雄に捧げる乙女の詩を読むのなら、自分がその返詩である英雄の詩を読む」と申し出るのよ。
 突っ込みポイント4。「悪役令嬢の方が親切に見えるし筋が通っている」

 そこへ湧いて出た攻略対象達がなぜかニチカの選んだ詩を絶賛して「古くさい詩など皆飽きているだろう」とレイシールと女生徒Aの好きな英雄サーガを全否定する。
 突っ込みポイント5。「おまえらなんなんだよ」

 で、朗読会当日、全校生徒の前で、緊張して声が出なくなってしまう女生徒A。みかねたニチカが壇上にあがり、素敵な詩を暗唱する。会場は拍手喝采。
 突っ込みポイント6。「お前がごり押しして出したくせに、フォローするならともかく出番を横取りすんの!?」

 ニチカの詩に感動した生徒達は次のレイシールの朗読を聞いても白けるだけ。
 婚約者のアルベルトに至っては朗読が終わる前にニチカの肩を抱いてさっさと帰ってしまう。
 突っ込みポイント7。「アルベルトがクズすぎる。つーかお前ら後片づけとかしないの?」

 以上、ざっと述べただけでもこれだけの突っ込みどころのあるイベントである。細かいところを上げればさらに突っ込みどころがあるだろう。

 思わず頭を抱えたくなった。
 あー、ニチカが何をしようと興味ないし、攻略対象どももどうでもいいけど、かわいそうな女生徒Aだけは守ってあげたいな。

 よし。ニチカの魔の手から女生徒Aを守る。それを目標にしよう。

「がんばりましょうね!カーナガワ様……と、ミヤッギ様」

 目標が定まった私はティアナに向かってにっこり微笑んだ。




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