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17、ヒロイン登場!

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 広い敷地に壮麗な白亜の建物。

 あーあ。来てしまったよ。

 北の領都で編み物したり雪かきしたりであっという間に時は過ぎ、今日は学園の入学式だ。

 学園の前に佇んだ私は思わず溜め息を吐いた。できれば来たくなかったけれど、貴族は皆この学園に通うのだから仕方がない。

 まあ、関係者一同に関わらなければ大丈夫か。
 ひっそりと目立たずに過ごそう。

「レイシール!」

 誓いを一瞬で台無しにしやがって。

「会いたかったぞレイシール!入学おめでとう!」

 ジェンスロッドはまっすぐ走ってきてがばーっと抱きついてきた。犬かよ、まったく。

 ジェンスロッド・サイタマーはあの冬の日から毎年、長期休みの度に私に会いにやってきた。会えないときでも何かしら贈り物や手紙が届けられたりで、見かけによらずマメな男だったらしい。

「久しぶり、ジェンス」
「レイシール、愛しいレイシー、今日から毎日会えるな」

 いえ、学年が違うので毎日会う必要はないかと。
 ていうか放して欲しい。周りからめちゃくちゃ見られている。

「おい、ジェンスロッド!レイシーから離れろ!」

 お兄様が私からジェンスを引き剥がしてくれた。

「ジェンスロッド」

 うげ。出た。

「あ、アルベルト。紹介する。俺の婚約者のレイシール・ホーカイドだ。レイシー、俺の親友のアルベルト・トキオートだ」
「レイシール・ホーカイドです。お見知り置きを」
「きみのことはジェンスロッドからよく聞いているよ。確かに話の通り可愛いお嬢さんだ」

 うっそつけ。お前ら二人して肖像画を見てさんざんレイシールの容姿をこき下ろしてやがったの知ってんだからな。お前なんかさっさとニチカに落とされろ。二度と這い上がってくるな。

 そんな風に思っていると、

「きゃあっ」

という声と共に、後ろから何かにぶつかられた。
 勢いあまって、ジェンスの胸に飛び込む。

「レイシー!大丈夫か!」

 どさくさに紛れて私を抱きしめるジェンスロッド・サイタマー。セクハラのチャンスは逃さない男である。

「あー、大丈……」
「ひどいですっ!何をするんですかっ?」

 私の言葉を遮って、地面に転んだ少女が叫んだ。

 うん。ぶつかってきたのはそっちだぞ。

 なあ、ヒロイン。

 私は冷めた目でニチカ・チューオウを見下ろした。

 黒髪に青い瞳という、日本人よりにしたいのかなんなのかよくわからない容姿の少女が涙目で私を睨みつけている。

 えーと、これって入学イベントかな?
 アルベルトにぶつかったニチカをレイシールが無礼者と罵って突き飛ばし、アルベルトがニチカを庇いレイシールを非難するという始まりだったはずだけど。

「きみ、ホーカイド公爵令嬢に対して無礼だぞ。きみからぶつかって来たんじゃないか」

 ん?なんでアルベルトがレイシールを庇ってるんだ?

 アルベルトに声をかけられたニチカはぱっと顔を輝かせた。

「あの!私、ニチカ・チューオウといいます!はじめまして!」

 自己紹介の前にまず立ち上がろうぜ。
 地面に尻餅ついたままキラキラした目で見上げるもんだから、アルベルトが困惑しているじゃないか。

 あ、もしかして、助け起こされるのを待っているのか?
 レイシールに突き飛ばされて転んだニチカをアルベルトが助け起こして恋が始まるはずだったからな。

 ん?もしかして、それを知っているってことは、ニチカも転生してきた人なんだろうか。

 アルベルトがなかなか手を差し出さないためか、ニチカは立ち上がらないままこちらに目を向けてお兄様を見て頬を染めた。

「あ、あの、お名前をきいてもいいですか!?」

 お兄様は攻略対象じゃないけど興味あるのだろうか?まあお兄様は絶世の美形だけど。

「レイシールの兄、ホーカイド公爵家嫡男ヒョードルだ」
「えっ?なんで生きてるの?」

 うわっ、言っちゃった。お兄様が思い切り眉をひそめる。

「あ、あの皆様!ここにいては他の生徒の邪魔になります!」
「ああ。レイシール嬢の言う通りだ。我々はもう行こう。レイシール嬢、それではまた後で」

 不穏な空気をなんとかしようと口を挟むと、アルベルトがそれに頷いてジェンスを掴んで引きずって退場した。

「レイシール、講堂まで送ろう」
「ありがとうございます、お兄様」

 気を取り直したお兄様にエスコートされ、私は入学式が行われる講堂へ向かって歩き出した。
 背後にヒロインの突き刺すような視線を感じて、なんだか面倒くさいことになりそうな気がして気が重くなった。




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