46 / 104
第二話「鏡の顔」
5
しおりを挟む「今度は藤蒔が怪我したってよ!」
放課後、帰り支度をしていた稔のところに、大透が息を切らして駆け込んできた。
「今、職員室の前で先生達が話してんの聞いちまった……」
大透はわずかに顔を曇らせた。
「車に撥ねられたんだって。命に別状はないけれど、あいつ、サッカー部だろ……」
怪我の程度によっては、スポーツ選手としての生命が絶たれる可能性もある。
教室に残っていたのは稔と文司だけだが、大透が聞いた話はすぐに学校中に広がるだろうと思われた。三日続けて生徒が大怪我したのだ。
「それがさ、怪我した三人とも高等部一年檜組の生徒なんだって。それでよ、倉井」
ここで大透は声を低めた。
「その三人は、高遠 信行って生徒をいじめていたらしい」
「あ、俺もその噂、ちらっと聞きました。高等部じゃ崇りだって騒がれてるみたいですよ」
(いじめ、か……)
稔の脳裏に、霊の溜まり場と化したあのトイレが浮かび上がった。では、あそこでいじめられていた彼が、高遠 信行か。
「たぶん、倉井は俺と同じこと考えてるな」
ニヤニヤ笑いながら、大透は言う。
「三人が怪我した時、高遠はちゃんと教室にいたとクラスメイトが証言している。じゃあ高遠は無実じゃん、と考えるのは素人の浅はかさ。ずばり、高遠は生霊を飛ばして憎い奴らを襲っていたのだ!」
声高らかに言ってのける大透の頭をはたいて、稔は教室を出た。
「樫塚、その馬鹿に構ってるといつまでたっても帰れないぞ」
「待ってくださいよ師匠」
文司と、頭を押さえた大透が慌ててついてくる。
「でも倉井だって、高遠ってのが、あの時トイレでいじめられてた奴だって思ってんだろ?生霊はともなく、呪いぐらいはかけそうな奴だったじゃん」
後ろ頭をさすりながら、大透が言い募る。
「生霊だろうが、呪いだろうが、俺には関係ない!」
階段を降りながら、稔は言い返した。
「でも、本当にそうなら、呪いなんてやめさせた方が……」
文司までそんなことを言い出したので、稔は踊り場で立ち止まって二人を睨みつけた。
「高遠がいじめっこを呪ってたってんなら、それはもう終わったんだ。三人とも大怪我したんだから。この後、高遠が何してどうなろうが俺には……」
関係ない。と言おうとした時、体が浮いた。
足が、床から離れている。そのままゆっくりと、体が傾いでいく。
(え?)
一瞬、稔は何が起きたのかわからなかった。
ただ、背中に何か違和感があった。
誰かに背中を押されて、階段から突き落とされたのだ。
そのことに気づいたのは、階段を転がり落ち、床に頭を打ち付けて気を失う、一瞬前のことだった。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
『忌み地・元霧原村の怪』
潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。
渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。
《主人公は和也(語り部)となります》
奇怪未解世界
五月 病
ホラー
突如大勢の人間が消えるという事件が起きた。
学内にいた人間の中で唯一生存した女子高生そよぎは自身に降りかかる怪異を退け、消えた友人たちを取り戻すために「怪人アンサー」に助けを求める。
奇妙な契約関係になった怪人アンサーとそよぎは学校の人間が消えた理由を見つけ出すため夕刻から深夜にかけて調査を進めていく。
その過程で様々な怪異に遭遇していくことになっていくが……。
アポリアの林
千年砂漠
ホラー
中学三年生の久住晴彦は学校でのイジメに耐えかねて家出し、プロフィール完全未公開の小説家の羽崎薫に保護された。
しかし羽崎の家で一ヶ月過した後家に戻った晴彦は重大な事件を起こしてしまう。
晴彦の事件を捜査する井川達夫と小宮俊介は、晴彦を保護した羽崎に滞在中の晴彦の話を聞きに行くが、特に不審な点はない。が、羽崎の家のある林の中で赤いワンピースの少女を見た小宮は、少女に示唆され夢で晴彦が事件を起こすまでの日々の追体験をするようになる。
羽崎の態度に引っかかる物を感じた井川は、晴彦のクラスメートで人の意識や感情が見える共感覚の持ち主の原田詩織の助けを得て小宮と共に、羽崎と少女の謎の解明へと乗り出す。
リューズ
宮田歩
ホラー
アンティークの機械式の手に入れた平田。ふとした事でリューズをいじってみると、時間が飛んだ。しかも飛ばした記憶ははっきりとしている。平田は「嫌な時間を飛ばす」と言う夢の様な生活を手に入れた…。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる