百物語〜霊感少年の憂鬱な日常〜

荒瀬ヤヒロ

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第一話「白い手」

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◇◆◇◆◇◆◇◆


 えーっと。どういう状態だ、コレ。


「やあ、ルーなんちゃら君。全然お店に来てくれないから、持って来てあげたよ~」
「……何を」


 何故ココに変態が。


「これこれ~」
「あ、板チョコ」
「いたちょ……違うけど、うんそう」


 わざわざ板チョコを配達しに来てくれたのか?
 ディオンと一緒に?


「どうも」
「ね~、それタダであげるから僕と話そうよぉ」
「嫌です」
「ルーカス、仕事があるんだろ。早く兄貴のとこへ戻れ」


 いや、ほんとに何しに来たの。お二人さん。
 変態はニヤニヤ笑ってるし、ディオンは顔の治安が悪すぎるし。


「じゃあ、俺はこれでーーーーわっ」


 そのままフィン兄の仕事部屋に戻ろうとしたら、目の前に変態が居た。
 ナニコレ、デジャブ。


「せっかく来たのに、それは酷くない?」
「ワープ使ったんですか」
「うん」
「……マナの無駄使い」
「何か言ったぁ?」
「いえ、何も。あの、そこ退いて下さい」
「イヤ。僕と遊ぶ約束するなら、良いよ~」


 小学生かコイツは。
 ディオンにどうするか聞こう。
そう思って振り向こうとしたら、人にぶつかった。
……真後ろに立つなよー!


「いてっ」
「悪い、大丈夫か」
「ディオン……もしかして、お前もワープを」
「歩いただけだ」


 ですよね。食い気味で答えなくても良いんじゃないかい。さっきの今だったから、もしかしたらって思ったんだよ。だって、あの変態があんなに簡単に使うから。


「あの人、何しに来たの。てかディオン、仕事は?」
第3騎士団オレたちに喧嘩売るだけ売っといて、ルーカスに土産渡すってほざきやがった」
「??」
「だから、見張りに来た」
「あー、なるほど。さっぱり分からん。よし、なら土産はもらったから、用は済んだな」
「ああ。邪魔して悪かった。兄貴によろしく」
「おう」


 ディオンが連れて帰ってくれるなら一安心、と思ったが、そうは上手くいかなかった。


「だ~か~らぁ、僕と遊ぼうよ。ルーなんちゃら」
「ルーカスです」
「ルーカスくん、遊ぼ。何処が良い?
あっ、僕の職場見学する~?」
「おい、近づくな。嫌がってるだろ」


 ぎゅうっと、隠す様にディオンに抱きしめられる。
うーん。いっそ、このまま運んでもらえば安全なんじゃないか?
 ふわっと香る、石鹸の匂いが俺をダラけさせる。
 そーいや、今日はまだハグしてなかったな。
 屋敷では、わりと今みたいにディオンが抱き着いてくる事が多い。俺のサイズ感がちょうど良いっぽい。
 常に人肌を求めるなんて、可愛い奴め。
 だからか、最近はディオンの匂いで落ち着く様になってしまった。
同じ石鹸なのに、何でこうも違うんだろう。俺も、こんな風に香ってるんかな。


「別にいいじゃん。おーい、ルーカスくん。コッチ見て。何、眠たいのぉ? 僕が抱っこしてあげようか」
「要らないです。俺戻らなきゃいけないんで」
「ふ~ん。つまんないのー。
じゃあ、王様に言っちゃおうかなぁ」


 何を?!


「ルーカスくんが欲しがってるから、薬の材料ありませんっ、て」
「言ってないんですけど!」
「王様どう思うかな~。王妃様のお気に入りだしねぇ。モンフォール伯爵が呼び出されちゃうかな?」


 このヤロウ、なんてセコイ奴なんだ。
 そんなしょうもない理由で、モンフォール家に迷惑かけられるか、馬鹿野郎!


「ルーカス、無視してればいい。陛下は戯言に耳を貸すほど暇じゃない」
「あ、そっか」
「やだな~。僕が作らなければ、手に入らないんだから同じ事だよぉ」


 チョコ作ってんの、変態おまえかー!!
 まさか、こんな小学生がダダこねたみたいな理由で脅される日が来ようとはっ。
 人生って分からない。


「職場見学するんで、もう関わらないでもらえます?」
「ん~明日迎えに行くから、親睦を深めていこうね~」
「え、聞いてました? 関わらないでって言ったんですけど」
「じゃあねー。あ、副団長はお留守番ね。ルーカスくんだけの招待だから」
「あ゛あ?」


 え、本当にあっさり帰るじゃん。
 なんなんだよ、調子狂うなー。


「……ディオンは、帰らなくて大丈夫か?」
「そんなに早く帰って欲しいのか」


 おい、仕事中だろ。
 フィン兄に怒られるぞ。


「言い方に棘があるな。
とにかく、俺戻らなきゃ。サボりは良くないし」
「……今晩一緒に寝るぞ」
「はいはい。甘んじて抱き枕役を引き受けてやるよ」
「約束したからな」
「へーへー」


 ちょいちょい、構ってちゃんモード発動するけど、大丈夫なんだろうか。
 モンフォールの次男は情けないとか噂されてたら、どうしよう。
俺のせい?





ーーーー
ーーー

 
「ルゥ、この書類を経理に。これは、情報処理に持って行ってくれ」
「はい」
「終わったら、食堂の前で待ってなさい。遅くなったが、一緒に昼食をとろう」
「はいっ」
 


 メーシっ、飯、飯!
 腹減ってたんだよー。第1騎士団の食堂はどんな感じだろ。建物と一緒で、食事も豪華だったりして。
……そんなわけねーか。ちんたら、高級食材なんて食ってる暇ないよな。普通。

 まずは、経理だ。たしか、2階だったっけ。





「失礼します」
「あー、団長の! ご苦労様です」


 うわ、爽やかっ。
 書類に追われてるはずなのに、全然疲れが見えない。

 次、情報処理。



「失礼します」
「……え~っと、ルーカス殿。はい、確かにお預かりしました。あ、お茶飲みます?」
「いえ、大丈夫です」


 経理に比べて静かな雰囲気だが、それでも爽やかだ。
というか、余裕を感じる。


 やべぇ、第3騎士団みんなが可哀想に思えてきた。この違いは、何だ。
 1人1人のスペックの違いか、回ってくる仕事の違いか。
ーー謎だな。
 帰ったら、ディオンに聞こう。







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