20 / 104
第一話「白い手」
20
しおりを挟む***
空は晴れているが屋上には少し冷たい風が吹いていた。稔についてきた大透は盛大にくしゃみをしてから、待っていた石森に食ってかかった。
「なんだよ。こんなところに呼び出して。言っとくけど告白なら無駄だぞ。倉井には俺というものがあるからな」
どうやら図書室で石森が稔を臆病者扱いしたことにまだ腹を立てているらしく、言葉に棘がある。稔は大透の頭を軽く殴ってから、俯いている石森に声をかけた。
「話って、樫塚のことだろ。違うか?」
石森の肩がビクッと震えた。大透がはっくしょんとくしゃみをする。
石森は躊躇うかのような沈黙の後で口を開いた。
「……倉井って、本当に、霊能力があるんだろ?」
顔を上げて、稔の目をひたりと見据えて石森は言った。
「樫塚の、アレ、見たか……?」
その声は不安そうに揺れていた。
「アレ、って?」
石森の言う「アレ」というのは、自分が見たどれのことだろうと思いながら、稔は尋ね返した。腕に絡みつく白い手か、まとわりつく白い靄か、髪の長い女の影か。
どれだか知らないが、とにかく石森は樫塚について何かを「見た」らしい。
「何を見たっってんだよ?」
大透が鼻をすすりながら問う。どうやら興味が出てきたらしい。だが、石森はそれには答えずに目を伏せた。青ざめた顔で、無意識だろうか――右腕を擦る仕草をする。
「……あの穂、図書室で何を見たか教えてくれ」
目を伏せたまま、石森は言った。
「あの時、倉井は慌てて出ていっただろう? 何かいたんじゃないのか。教えてくれ。お前には本当に霊が見えるんだろう?」
「ってことは、やっぱし樫塚に霊能力があるっていうのは嘘なんだな」
大透が口を尖らせた。
「樫塚の自業自得じゃん。霊が見える振りなんかするから取り憑かれるんだよ」
「違う!」
呆れを隠さない大透の台詞に、石森が噛みつくように怒鳴った。
「樫塚は悪くないっ!」
稔と大透は目を丸くして、石森を見た。二人とも、石森がなぜそんなにムキになるのかわからなかった。こうして部活をサボってまで稔達に尋ねるほど、石森は文司のことを気にしている。
石森は気持ちを落ち着けようとするように前髪をかき上げ、細く息を吐いた。
「……悪いのは、あいつの周りの連中だ」
吐き捨てるようにそう言って、石森は背を向けた。フェンスに手を掛けてその向こうに広がる曇り空を睨む石森の脳裏に、午前中で早退してしまった文司の姿が思い浮かぶ。心配して玄関まで送ろうとした石森に、いつもの「大丈夫」という口癖を残して、どこか後ろめたそうに眉を下げていた。
そんな顔しなくていいのに。悪いのは文司ではないのに。
やり場のない怒りが湧き上がってくるのを抑えながら、石森は口を開いた。
0
お気に入りに追加
59
あなたにおすすめの小説
『忌み地・元霧原村の怪』
潮ノ海月
ホラー
とある年の五月の中旬、都会から来た転校生、神代渉が霧野川高校の教室に現れる。彼の洗練された姿に女子たちは興味を示し、一部の男子は不満を抱く。その中、主人公の森月和也は、渉の涼やかな笑顔の裏に冷たさを感じ、彼に違和感を感じた。
渉の編入から一週間が過ぎ、男子達も次第に渉を受け入れ、和也の友人の野風雄二も渉の魅力に引き込まれ、彼の友人となった。転校生騒ぎが終息しかけたある日の学校の昼休み、女子二人が『こっくりさん』で遊び始め、突然の悲鳴が教室に響く。そしてその翌日、同じクラスの女子、清水莉子が体調不良で休み、『こっくりさん』の祟りという噂が学校中に広まっていく。その次の日の放課後、莉子を心配したと斉藤凪紗は、彼女の友人である和也、雄二、凪沙、葵、渉の五人と共に莉子の家を訪れる。すると莉子の家は重苦しい雰囲気に包まれ、莉子の母親は憔悴した姿に変わっていた。その異変に気づいた渉と和也が莉子の部屋へ入ると、彼女は霊障によって変わり果てた姿に。しかし、彼女の霊障は始まりでしかなく、その後に起こる霊障、怪異。そして元霧原村に古くから伝わる因習、忌み地にまつわる闇、恐怖の怪異へと続く序章に過ぎなかった。
《主人公は和也(語り部)となります》
奇怪未解世界
五月 病
ホラー
突如大勢の人間が消えるという事件が起きた。
学内にいた人間の中で唯一生存した女子高生そよぎは自身に降りかかる怪異を退け、消えた友人たちを取り戻すために「怪人アンサー」に助けを求める。
奇妙な契約関係になった怪人アンサーとそよぎは学校の人間が消えた理由を見つけ出すため夕刻から深夜にかけて調査を進めていく。
その過程で様々な怪異に遭遇していくことになっていくが……。
アポリアの林
千年砂漠
ホラー
中学三年生の久住晴彦は学校でのイジメに耐えかねて家出し、プロフィール完全未公開の小説家の羽崎薫に保護された。
しかし羽崎の家で一ヶ月過した後家に戻った晴彦は重大な事件を起こしてしまう。
晴彦の事件を捜査する井川達夫と小宮俊介は、晴彦を保護した羽崎に滞在中の晴彦の話を聞きに行くが、特に不審な点はない。が、羽崎の家のある林の中で赤いワンピースの少女を見た小宮は、少女に示唆され夢で晴彦が事件を起こすまでの日々の追体験をするようになる。
羽崎の態度に引っかかる物を感じた井川は、晴彦のクラスメートで人の意識や感情が見える共感覚の持ち主の原田詩織の助けを得て小宮と共に、羽崎と少女の謎の解明へと乗り出す。
リューズ
宮田歩
ホラー
アンティークの機械式の手に入れた平田。ふとした事でリューズをいじってみると、時間が飛んだ。しかも飛ばした記憶ははっきりとしている。平田は「嫌な時間を飛ばす」と言う夢の様な生活を手に入れた…。

【⁉】意味がわかると怖い話【解説あり】
絢郷水沙
ホラー
普通に読めばそうでもないけど、よく考えてみたらゾクッとする、そんな怖い話です。基本1ページ完結。
下にスクロールするとヒントと解説があります。何が怖いのか、ぜひ推理しながら読み進めてみてください。
※全話オリジナル作品です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる