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第一話「白い手」
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学校に行きたくない。入学して一ヶ月も経っていないが、今朝ほどそう思ったことはなかった。
しかし、「霊に取り憑かれたクラスメイトを見たくないから」という理由で登校拒否をするわけにはいかない。兄に心配をさせてしまう。
稔は重い体を引きずってのろのろと登校した。遅刻ギリギリで教室に入ると、目線を上げないようにしながら席に着いた。
早速、後ろの席から大透が話しかけてきた。
「おっす。昨日はいきなりどうしたんだよ? あの写真に、なんかよくないもんが映ってたのか?」
「……」
稔は振り向きもせずに無視をした。幸い、すぐに担任が入ってきたので、それ以上はしつこくされなかった。だが、休み時間になればまたあれこれ尋ねられるに違いない。
どうやってはぐらかそう。
目の前の難問に思わず溜め息を吐いた時、ふと視線を感じて稔は顔を上げた。斜め前の席の文司がこちらを見ていた。稔と目が合うと、怯えたように逸らしてしまう。相変わらず顔は青く、病人のように見える。
稔も視線を逸らして窓の外に目を向けた。窓の外は見事な青空で、三時間目の体育は外でサッカーだな、とどうでもいいことを考えて気を紛らわせようとした。もう関わらないと決めたのだから。
しかし、そんな稔の決意を責め立てるかのように、一時間目の終わり頃に文司が倒れて保健室へ運ばれた。
「やっぱりお祓いに連れて行こうぜ」
大透が真剣な顔で言った。
「昨日の後藤さんの話を聞いたら、一刻も早く解決した方がいいって気がしてきた。ネットで調べたら、神社に行けば五千円とか一万円ぐらいでお祓いってやってもらえるらしい」
「……うん」
確かに、それが最善だと思う。ただ、それに稔は関わりたくない。少しも。
煮え切らない返事をする稔の態度に、大透は不満そうに片眉を跳ね上げた。大透が何を言いたいのか稔にはわかっていたが、過去の苦い経験が稔に二の足を踏ませていた。
正直に、「関わりたくない」と言ったらどうなるのだろう。大透は怒って失望して、自分から離れていってくれるだろうか。そして、文司はなすすべなく竹原と同じ道を——
「倉井」
稔の不吉な想像を中断させたのは、大透ではない誰かの低い声だった。振り向くと、強ばった表情でこちらを見据える石森の姿があった。
「放課後、ちょっと付き合ってくれないか。宮城も。——頼む」
真剣な表情でいい、石森はちらりと文司の席に目を走らせた。本人は保健室からまだ戻ってこない。
「屋上で待ってる」
予鈴が鳴ったので、石森は短く告げて自分の席に戻っていった。大透も稔の後ろの席に着く。
関わらないと決めたのに、その決意とは裏腹に動いていく事態に、稔は深い溜め息を吐いた。
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