17 / 24
17
しおりを挟むその日の夜、寝台に入ってから、私はふと昔のことを思い出した。
八歳か九歳か、そのくらいだったと思う。今では諦めているけれど、その頃の私はまだリリアンにものを奪われるのに多少は抵抗していたのだ。
その日は私の誕生日で、当然のごとくプレゼントは私の手を経由してリリアンに渡された。
それが不満で、悲しくて、私は家を飛び出して滅茶苦茶に走った。
そして、走り疲れて道にうずくまって泣いていた。
『どうしたんだ?』
子供の声がして、顔を上げると、どこかの家の鉄門の向こうに十歳くらいの男の子が立ってこちらを見ていた。
私は、初対面の男の子に何があったのかを洗いざらい吐き出した。泣きながら、要領を得ない話を聞かされて、さぞ訳が分からなかったこどだろう。
だけど、男の子は最後まで聞いてくれて、それで。
『大人になったら迎えに行って、そんな家から連れ出してやる。だから、待っていろ』
そう言ってくれたのだ。
恋ではないけれど、もしかしたら、私があの異常な家で壊れずに頑張れたのは、あの男の子の言葉に励まされたからかもしれない。
名前すら知らない男の子だけれど、私の恩人だ。
せっかく思い出したのだから、夢の中で会えないかな。と期待したけれど、夢の中に現れたのは美しい女性だった。
カレンス家の娘。
この家に来てから、実はたびたび彼女の夢を見ている。
彼女はどうやら私に何か伝えたいようで、口をぱくぱくさせている。でも、声は聞こえない。
私に何を伝えたいんだろう。
どうして、ディアンヌではなく私の夢に現れるのだろう。
私も彼女に言いたいことがあるけれど、夢の中で声が出せない。
もう、呪いなんてかけるのはやめようよ。
貴女を貶めた人々はもうとっくに亡くなっているのだから。
もう、自由になりましょうよ。
そう伝えたいのに、彼女に声が届かなくて、私は悲しかった。
そうして、いよいよ第二王子殿下の誕生日まで、あと一日となった。
喜ばしい日だと言うのに、ディアンヌと「親友」でいられるのがあと一日かと思うと、明日が来なければいいのに、と思ってしまう。
そんな私に反して、ディアンヌは朝からわくわくきらきらしていた。
「アデル! 届いた! 届いたわよ!」
お昼近くになって、ディアンヌが上機嫌に私に飛びついてきた。
85
お気に入りに追加
2,871
あなたにおすすめの小説
【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと
暁
恋愛
陽も沈み始めた森の中。
獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。
それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。
何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。
※
・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。
・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
追放された悪役令嬢はシングルマザー
ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。
断罪回避に奮闘するも失敗。
国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。
この子は私の子よ!守ってみせるわ。
1人、子を育てる決心をする。
そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。
さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥
ーーーー
完結確約 9話完結です。
短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる