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 陛下の声に会場中が注目する。

「皆、聞いてくれ。幼い頃より病で苦しんできた第二王子が、先頃ついに快復した」

 おお、と喜びの声が上がる。

 両陛下には二人の王子がいるが、この場には来ていない。第一王子である王太子殿下は、昨年結婚した隣国の王女の弟の結婚式に出席するために、共に隣国へ滞在している。
 第二王子は、十歳の頃から病を得てほとんど人前に出られたことがないということだった。


「そこで、ひと月後の第二王子の誕生日に夜会を開き、王子を皆に会わせたいと思う」

 会場中から祝福の声が上がった。
 第二王子のディートリフ殿下は確か十八歳になるはずだ。婚約者もいないはずなので、年頃の合う令嬢の中には胸をときめかせている者もいるだろう。

「お父様! 私、王子様と結婚したいわ!」

 ガクッと力が抜けそうになった。
 リリアンがお父様とお母様に「王子様との結婚」をねだっている。
 申し訳ないが今日はもう関わりたくない。私はディアンヌ様の手を引いてそっとその場を離れた。

「残念だったわね」
「え?」

 会場から出ようと歩いていると、ディアンヌ様が眉を下げて言った。

「侯爵家の彼、貴女のファーストダンスの相手になろうと声をかけてくれたのよ。それなのに、妹さんに邪魔されちゃって……いえ、私が長々と喋ってしまったのが悪いわね。申し訳なかったわ」

 ディアンヌ様に謝られて、私は慌ててしまった。
 そっか。普通はデビュタントではまず父親と踊った後に他の男性と踊ることが出来るようになるのだ。だが、我が家はああだから、事情を知るジョーゼフ様が気を遣ってくれたのか。

「いいんです。ダンスは出来なくても、素敵なドレスで夜会に来れたし。なにより、ディアンヌ様とお知り合いになれてうれしいです」
「あら、冷たいわね。お知り合いじゃなくてお友達……いえ、親友と言ってちょうだい」

 私はディアンヌ様と笑い合いながら会場を後にした。
 ディアンヌ様の家の馬車に乗せてもらって、街外れの家に戻る。またしてもメイド達の手に放り投げられ、徹底的に磨き上げられてしまった。

「あ、あの、ディアンヌ様……?」
「いいじゃない。似合うわよ」

 また別のドレスを着せられ、私は戸惑った。淡い緑のドレスで、やっぱり古いものだけど、装飾は派手ではなくて上品で落ち着いている。
 何故、またドレスを……?

「明日から、さっそくお仕事を始めてもらうわ。明日、迎えに行くからね」

 そう言われて、私は気を引き締めた。陛下から直々に頼まれた仕事だ。絶対にやり遂げなければならない。

「はい! お任せください!」
「ええ。それでね、そのお仕事はきちんとした格好でなければ出来ないの。だから、これから毎日貴女にはこの家にあるドレスを着てもらいます」
「え?」

 ディアンヌ様の言葉に私は目を丸くした。


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