私の婚約者は失恋の痛手を抱えています。

荒瀬ヤヒロ

文字の大きさ
上 下
3 / 4

しおりを挟む



side:ケイン


 幼馴染のミーナに失恋し、一時期自暴自棄になった俺に両親は知人の令嬢との婚約を押し付けてきた。
 気は進まなかったが両親の手前、受け入れるしかなく、俺はリンジーと婚約した。

 婚約したばかりのことを思い出すと、申し訳なくてリンジーに土下座したくなる。俺は相当なクソ野郎だった。
 けれど、ぎこちないながらも婚約者として付き合ううちに、リンジーの優しさに癒されて、俺は失恋の痛みを少しずつ忘れていった。

 リンジーが応援してくれたこともあって、研究を完成させることができた俺は、その功績で未来が開けた。
 ようやく、リンジーにふさわしい男になれたような気がして、俺は嬉しかった。

 学園卒業するまで、と自分で条件をつけたくせに、一刻も早くリンジーとの婚約を周囲に知らせたくなって、俺は自分の現金さに呆れつつ条件を反故にしてもらった。

 これからは今までの詫びにリンジーのお願いはなんでも聞いてやろう。
 そう心に決めた俺の前に、ある日突然、ミーナが訪ねてきた。

「久しぶりだな、どうしたんだ?」

 ミーナを前にしても、俺の心はちっとも騒がなかった。もうすっかり立ち直っていたようだ。リンジーのおかげだ。
 俺は幸せいっぱいだったが、ミーナは辛そうな表情だった。

「ケイン……実は、ダンが浮気しているみたいなの……」
「ええ?」

 意外なことをミーナが言い出して、俺は面食らった。

「勘違いじゃないのか?」

 ダンは昔から真っ直ぐな性格でとてもいい奴だ。ミーナもそこに惹かれたんだろう。
 間違っても浮気をするような奴じゃない。

「確かめてみろよ。きっと勘違いだ」
「でも、怖くて……」

 ミーナは不安そうにしていた。

「こんなこと、ケインぐらいにしか相談できなくて……」

 ミーナはそう言って、度々訪ねてくるようになった。
 幼馴染として、相談に乗ってやるぐらいはしてやらねばと思ったが、俺がどんなに「本人に確かめろ」と言ってもミーナは「怖い」とか「不安なの…」としか言わない。じゃあ俺が確かめてやると言っても「私のせいで二人が喧嘩になったら嫌!」と泣いて止める。

「ケイン! あのね、ダンが……」と泣きながら抱きついてくるので、俺は引き離してなだめてやらなくちゃいけない。
 ミーナには申し訳ないが、俺もいつまでも付き合っていられない。

「あのな、実は俺、一年前から婚約していて、近々発表する予定なんだ。だから、もうこうやって相談に乗ってはやれない。悪いこと言わないから勇気を出してダンに確かめてみろ。もし、本当に浮気していたら俺がダンに怒ってやるから」

 そう言うと、ミーナは俺の婚約者が誰か知りたがった。別にもうじき皆が知ることになるのだから言ってもいいかとリンジーの名を教えた。
 誤解だとは思うが恋人との仲がうまく言っていないミーナにあまりリンジーのことをのろけるわけにもいかなくて、この一年間俺を支えてくれた優しい人だとだけ伝えた。

 ミーナも早くダンと仲直りできるといいな。



 ***


side:ミーナ


 小さい頃から、私はお姫様だったわ。

 ダンとケインはいつも私のそばにいて、私のことを守ってくれていた。
 大人達は私達を見て「小さなお姫様を守る二人の騎士様ね」と言った。

 二人はいつだって私を一番に優先してくれて、それは今後もずっと変わらないと思っていたわ。

 だけど、大きくなって学園に入ると、二人から告白されて、どちらか選ばないといけなくなったの。

 私はダンを選んだわ。ケインは学術科に入って研究ばかりでちょっと頼りなかったし、武術科で頼り甲斐のあるダンの方が彼氏として自慢できた。武術科には見学の女の子が集まっていることが多いから、ダンのそばにいるとその子達の羨望の視線を浴びることができたわ。

 だけど、一年ほど過ぎた頃に、ケインの研究が認められて卒業後は王立研究所に入るって噂が流れて驚いたの。

 王立研究所って言ったらすごいエリートコースじゃない!

 私はすぐにケインに会いにいったわ。ケインは私のことが大好きだから、私が会いに行けば喜ぶわ。だけど、いきなり「本当はケインが好きだったの」といっても、ケインのことだから「ダンに悪い」とか気を使っちゃいそうだわ。

 そう思った私は、ダンに浮気されたということにしてケインの同情を引いた。何度も会って相談するうちに、周りは私達のことを噂しはじめたわ。
 周りに人目があるのを確認して抱きついたりしていたら、勝手に周りが誤解してくれるんだから、私は悪くないわよね。

 でも、ダンにバレる前になんとかしないと…と思っていたら、ケインが「婚約者がいる」とか言い出した。
 私に失恋したすぐ後に婚約していたらしい。なによそれ、きっと相手の女が強引に迫ったんだわ。
 私はケインから相手の名前を聞いてすぐに会いにいった。ケインが私のことを好きだって思い知らせてやらなきゃ。ケインは小さい頃からずーっと私のことが好きだったのよ。

 でも、この邪魔な婚約者がいたらケインと私が幸せになれないわ。
 だから、私は邪魔者をいっぺんに片付ける方法を思いついて実行したの。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

婚約者の初恋を応援するために婚約解消を受け入れました

よーこ
恋愛
侯爵令嬢のアレクシアは婚約者の王太子から婚約の解消を頼まれてしまう。 理由は初恋の相手である男爵令嬢と添い遂げたいから。 それを聞いたアレクシアは、王太子の恋を応援することに。 さて、王太子の初恋は実るのかどうなのか。

婚約者を交換しましょう!

しゃーりん
恋愛
公爵令息ランディの婚約者ローズはまだ14歳。 友人たちにローズの幼さを語って貶すところを聞いてしまった。 ならば婚約解消しましょう? 一緒に話を聞いていた姉と姉の婚約者、そして父の協力で婚約解消するお話です。

デートリヒは白い結婚をする

毛蟹葵葉
恋愛
デートリヒには婚約者がいる。 関係は最悪で「噂」によると恋人がいるらしい。 式が間近に迫ってくると、婚約者はデートリヒにこう言った。 「デートリヒ、お前とは白い結婚をする」 デートリヒは、微かな胸の痛みを見て見ぬふりをしてこう返した。 「望むところよ」 式当日、とんでもないことが起こった。

エデルガルトの幸せ

よーこ
恋愛
よくある婚約破棄もの。 学院の昼休みに幼い頃からの婚約者に呼び出され、婚約破棄を突きつけられたエデルガルト。 彼女が長年の婚約者から離れ、新しい恋をして幸せになるまでのお話。 全5話。

陰で泣くとか無理なので

中田カナ
恋愛
婚約者である王太子殿下のご学友達に陰口を叩かれていたけれど、泣き寝入りなんて趣味じゃない。 ※ 小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

わたしはくじ引きで選ばれたにすぎない婚約者だったらしい

よーこ
恋愛
特に美しくもなく、賢くもなく、家柄はそこそこでしかない伯爵令嬢リリアーナは、婚約後六年経ったある日、婚約者である大好きな第二王子に自分が未来の王子妃として選ばれた理由を尋ねてみた。 王子の答えはこうだった。 「くじで引いた紙にリリアーナの名前が書かれていたから」 え、わたし、そんな取るに足らない存在でしかなかったの?! 思い出してみれば、今まで王子に「好きだ」みたいなことを言われたことがない。 ショックを受けたリリアーナは……。

みんながまるくおさまった

しゃーりん
恋愛
カレンは侯爵家の次女でもうすぐ婚約が結ばれるはずだった。 婚約者となるネイドを姉ナタリーに会わせなければ。 姉は侯爵家の跡継ぎで婚約者のアーサーもいる。 それなのに、姉はネイドに一目惚れをしてしまった。そしてネイドも。 もう好きにして。投げやりな気持ちで父が正しい判断をしてくれるのを期待した。 カレン、ナタリー、アーサー、ネイドがみんな満足する結果となったお話です。

君を愛する事は無いと言われて私もですと返した結果、逆ギレされて即離婚に至りました

富士山のぼり
恋愛
侯爵家に嫁いだ男爵令嬢リリアーヌは早々に夫から「君を愛する事は無い」と言われてしまった。 結婚は両家の父が取り決めたもので愛情は無い婚姻だったからだ。 お互い様なのでリリアーヌは自分も同じだと返した。 その結果……。

処理中です...