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 リンジーは幸せな気持ちでいっぱいだった。
 あと二週間ほどで二人の婚約は周知のものとなる。今日も学校が終わったらケインの家に行ってパーティーの打ち合わせをするつもりだった。

 けれど。

「すまない、リンジー。今日は都合が悪くなったんだ」

 ケインは急に忙しくなってしまったようで、なかなか会えない日が続いた。
 そのうちに、リンジーの耳にとんでもない噂が飛び込んできた。

「ケインとミーナがよりを戻した」というのだ。
 よりを戻すも何も、二人はただの幼馴染で、ケインはミーナを好きだったが恋人同士であったことはない。よりを戻すという表現は間違っているのだが、「ケインとミーナが一緒にいるのを見た」「ミーナとケインが抱き合っていた」と噂する生徒達は気にしていなかった。

「……今日も都合が悪いの?」
「ああ。ごめん」

 噂が経ってから一週間、リンジーはいつも忙しいケインに不安を抱いた。リンジーに都合が悪いと言っていた日にミーナと会っていたという噂を聞いてしまったからだ。

(本当に都合が悪いのかしら?)

 気になったリンジーは、ケインの後をそっとついていってみた。

 そこで見たものは——

「ケイン!」
「ミーナ」

 駆け寄って抱き合う二人の姿だった。



 ***



 ミーナとケインの姿を見た翌日、リンジーはよく眠れなかったせいで体調が悪く、学園を休んだ。

「お嬢様、お客様がお見えです」

 ケインがお見舞いに来たのかと思って身支度をしたが、なんと訪ねてきたのはミーナだった。

「はじめましてぇ~。ケインからリンジーさんのことを聞いて会いたくなっちゃって」

 ミーナは可愛らしく小首を傾げた。

「は、はじめまして。私は……」
「ケインから聞きましたよ~。リンジーさんってぱ、ケインが落ち込んでる時に強引に婚約者になったんですって?」
「え?」

 思いも寄らないことを言われて、リンジーは目を丸くした。

「私、ケインの幼馴染で仲良しだから、ケインが困ってるなら助けてあげないとって思って!」
「はあ……」

 体調が思わしくないせいもあって、リンジーはミーナの言い分にうまく反論できなかった。

 その後も、ミーナはケインと自分がいかに仲がいいか力説し、リンジーの知らない幼い頃のエピソードをたっぷり話して帰っていった。

 どっと疲れてしまったリンジーは、ミーナが結局何をしに来たのかわからず困惑した。
 だって、ミーナにはダンという恋人がいるはずだし、リンジーとケインの婚約はもうすぐ発表される。どうして今頃になって、ミーナとケインが親しくしているんだろう。

 ケインが落ち込んでいる時にリンジーが強引に婚約者になったと、本当にケインがミーナにそう説明したのだろうか。
 ケインはまだミーナのことが好きで、リンジーとの婚約のことを伝えづらかったのかも知れない。

(でも、ミーナさんには恋人がいるんだし、……大丈夫よね……?)

 リンジーは自分にそう言い聞かせて気を取り直した。


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