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第7話 球拾いの天才⑺
しおりを挟む「はあはあ……悪い。うちの兄貴が」
部室棟の方まで逃げてきて、雨彦は息を整えながら謝った。
「いや、いいんだけど……お兄さんは、いったい……?」
「気にしないでくれ。うちの兄貴はちょっと過保護で、僕が自分の知らない人間と喋っているとパニック発作を起こしてしまうだけなんだ」
「ちょっと……?」
「だけ……?」
「しばらくすれば落ち着くから、大丈夫だ」
本当だろうか。
バレー部員は慣れているようだったが、エースがあんなに情緒不安定でいいのか。野分は心配になった。
「僕はほとぼりが冷めるまで待って戻るから、二人はもう行っていいよ」
雨彦はそう言ったが、野分は彼をおいて去る気にならなかった。
「……そうだ! じゃあ、ほとぼりが冷めるまでの間、野球部で球拾いをしてくれないか?」
野分は雨彦の目をまっすぐに見つめて言った。
「野球部でって……」
雨彦は戸惑ったように目を泳がせた。
「みんな、旧校舎の方にいるから! こっち!」
「あっ、おい……」
野分は戸惑う雨彦の腕を引いて、旧校舎へと引っ張って行った。
「おらあ霧原! そんなボールも捕れなくてどうする!」
「先輩のノックは難しいとこばっか狙い過ぎなんですよ! 初心者向けのノックをしてください!」
「あんだと、これぐらい俺は楽に捕れるぞ!」
凶暴そうな二年生と眼鏡の一年生が、ぽけっとした一年生の教育方針で言い争いになっている。
「ああ、もうっ! 喧嘩しないで!」
それを見た野分は慌てて仲裁に入った。
その様子を見て、雨彦はバレー部との違いに目を白黒させた。バレー部は強豪だけあって、日々の練習は地獄のように厳しいし、レギュラー陣とその他の部員はきっちり練習内容が分けられている。そんな部活を当たり前に目にしている雨彦の目には、野球部はだらだら遊んでいるようにしか見えない。
「おい、こいつ誰だ?」
凶暴そうな二年生が雨彦を見て尋ねる。
「霜枝 雨彦くんです。バレー部です」
野分は雨彦を紹介して得意そうに胸を張る。
「ちょっと練習に付き合ってもらおうと思って」
「はあ?」
二年生が凶暴な顔を歪めた。雨彦は野分の袖を引っ張って小声で尋ねた。
「何をしようってんだ」
野分はニッと笑って言った。
「球拾いだよ」
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