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第7話 球拾いの天才⑶
しおりを挟む「ど、どうして?」
「さあ? 一人だけうまいからやっかまれたのかもな。本人も顔は見ていないって言ってたらしいし、証拠もないから大事にはならなかったけどよ。
しばらくショックで塞ぎこんじまって……結局ぎりぎり二次募集でここに入ったんだってよ」
語り終えると、雷はふーっと大きく息を吐いて足元の段ボールを軽く蹴った。同級生の味わった理不尽さに静かに憤っているようだった。
「無理ねえな。信頼していた仲間に裏切られたんじゃあ」
晴がそう呟いた。
「元は爽やかだったのに、すっかり暗くなっちまって」
雷の言葉に、野分は眉を下げて肩を落とした。霰屋の身に起こったことがもしも自分だったらと想像すると、立ち直れるかどうか自信がない。
一緒に頑張ってきた仲間に嫉妬されて閉じ込められるだなんて。
それでも、今、野球部の戸を開いてくれたということは、再び野球をする気になったということだろう。
少しでも傷が癒えて、野球が出来るようになったのなら、部室の戸を叩いてくれたその勇気を無駄にする訳にはいかない。
「こうなったら、一刻も早くあと三人集めて、霰野先輩を迎えに行こう!」
野分は握った拳を突き上げて決意を新たにした。雲居と日和もうんうん頷く。
「そうと決まればいざ出陣!」
勢いのままにまだ見ぬ三名を狩りに行こうと部室を飛び出しかけた野分だったが、戸を開けた途端に何かにぶつかって尻もちをついた。
「いてて……」
野分が勢いよくぶつかった相手も反対側にひっくり返ったらしく、腰をさすりながら立ち上がる。その姿を見て雷が眉をひそめた。
「なんだ、アマタツじゃん」
「先生と呼びなさい先生と!」
立ち上がった教師がふん、と鼻を鳴らして宣言する。
「今日から野球部の顧問になる小糠 天達だ。よろしく」
「えー。顧問になってくれるんですか?」
「言っとくけど、野球は全然知らないからね! ただ頼まれたから」
「小倉先生に押し付けられたんだろ」
「うるさいぞ雷! とにかく、そういうことだから」
自己紹介だけして、小糠はさっさと踵を返してしまった。
「あれ? 帰っちゃうんですか」
「問題が起きない限りは顔出してこないな。あいつはそういう教師だ」
雷がそう言って肩をすくめた。
「まあ、でも、部室に顧問にと部活らしくてなってきた……」
「オーイ野球部」
三度、部室の戸が開けられた。
「今日は千客万来だなあ! 冷やかしはお断りだぞ!」
「雷先輩! 入部希望者かもしれないんだから!」
雲居が雷を押し留めるが、入ってきた生徒は顔色を変えずに部員を見渡した。
「悪いが、入部希望じゃない。三階の用具室に余ったロッカーがあるから取りに来いってよ。他にも使えそうなものがあったら持って行っていいと生徒会長からのお達しだ」
生徒会書記の木厚と名乗る三年生はそう言った。
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