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第6話 参戦!⑴
しおりを挟むエースの肩はもう限界だ。
ここでバッターは相手校の四番。カウントは9回裏ツーアウト。
この一球で勝負が決まる。
エースはバッターと静かに目線を交わし、ゆっくりと振りかぶった。そこで——次号に続く。
雲居はパタンと本を閉じた。じわじわと胸に満足感が広がっていく。
ほーっと息を吐いてうっとりと呟いた。
「はあ……やっぱりいいなあ。野球漫画は」
放課後の教室で夢中になってお気に入りの漫画を読んでいた雲居に、同じく教室に残っていたクラスメイトが感心したような呆れたような声を掛ける。
「雲居って、本当に野球漫画が好きだよな」
雲居は漫画に夢中になっていてずれた眼鏡を直しながら照れ笑いを浮かべた。
「そんなに野球が好きなら野球部に入ってやりゃいいじゃん。人数足んなくて大変らしいじゃん」
クラスメイトが窓の外を指しながら言う。
「無理無理!130キロとかのボールが飛んでくる球技なんて、僕は漫画を読んでるだけでいいんだ」
そう答えながら、雲居は窓の外の野球部を見やった。
正確には野球「部」ではないのだが、新一年生の間で野球部は嵐山 野分の名と共に結構有名だ。入学初日からしばらくの間、鬼気迫る形相で部員勧誘に走り回っていた姿を目にしていたからだ。
今でも絶賛部員募集中のようだが、最近では旧校舎付近でなにやらこそこそやっているようだ。
いつの間にか人数も四人に増えているらしいが、まともに練習しているのかは定かではない。現に今も。
「だっかっらーっ! なんで理解できねえんだよ!テメェの頭には何が詰まってんだ!? おがくずかっ!!」
「雷先輩! ブレイクブレイク!」
「俺は一日でルール覚えたぜ!」
「霧原くんのことは温かく見守ってあげて!」
強面の二年生が物覚えの悪い一年生にキレて、それをもう一人の一年生が必死で宥める。
ここ最近、毎日繰り返されている光景である。
キレられている当人はのほほんとした表情のまま、かかってきた電話に出ている。
「もしもし、かい」
「テメェこらっ!」
二年生が激怒して携帯を奪い取る。
「人が話してる最中に電話にでるんじゃねぇっ! お前の幼なじみに毎日かけてくんなって言ってやる……っ」
奪い取った携帯を見て、二年生が叫んだ。
「……って、これ簡単ケータイだーっ!!」
「どこまでも不憫な子っ!!」
およそ高校生が持つとは思えない短縮ボタン付きのデザインに、二年生は驚愕し、一年生はハンカチで涙を拭う。
(本当にやる気あるのか、あの連中……)
教室から眺める雲居がそう思ってしまうのも無理はない。
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