21 / 36
第5話 ロマンスは突然に⑶
しおりを挟む「あっ、あの、それじゃあこれで」
なにやらあたふたと野分の手を振りほどいてぱっと身を翻した他校生が、校門の方へ向かって駆けていく。
野分は慌ててその背中に声を掛けた。
「待って。キミの名前は? どこの学校なの?」
野分の声に応えて振り返り、他校生は笑顔でこう言った。
「この近くの花澤学園! 名前は菜種 桜! 絶対、応援に行くね!」
手を振りながら駆け去っていく姿に、野分も大きく手を振って見送った。
「うん! また来てね!」
まるで青春ロードムービーのような爽やかなシーンだったが、野分の後ろで雷がこきりと首を傾げた。
「……花澤って……」
「野分くん! 今日は差し入れ持ってきたんだ!」
明るい声と共に目の前に差し出されるかわいらしいハンカチ包み。中にはこれまたかわいらしいクマの形のココアクッキーがぎっしり詰まっている。
「あ、ありがとう」
ある種の迫力に押されて後ずさりしながら礼を言う野分を、菜種 桜はとろんとした目で熱っぽくみつめる。
桜は昨日とは異なり、制服姿だ。ブレザーにチェックのスカート。近隣の女子校、花澤学園のものである。
「お前、女子校の生徒が男子校に入ってくんなよ!」
草むしりに精を出していた雷が怒鳴る。
昨日桜に言われた通り、部に昇格する前ではあるが担任に相談してみたところ、すぐに市に掛け合ってくれた。
結果、荒れ果てた元市営球場を自分達で整備するなら自由にしていいと色よい返答を貰うことが出来た。
そのため、今日は放課後まっすぐ元市営球場にやってきて、すっかり草ぼうぼうの空き地となり果てた球場の想像以上の惨状に、とりあえず草むしりから始めようということになった。
そうして四人で黙々と草をむしっているところに、桜が登場したのだ。
「うるさい! だから、昨日はちゃんと男装してたでしょ!」
雷に向かって怒鳴り返す桜。
晴は草をむしる手を止めて桜と野分の様子を見やった。
野分は今一つよくわかっていないように愛想笑いを浮かべているが、桜は完全に乙女モード全開で野分に迫っている。
(ややこしいことに……)
いろんな意味で前途多難な自分達の状況に、晴は目頭を押さえて深い溜め息を吐いた。
0
お気に入りに追加
7
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。



如月さんは なびかない。~片想い中のクラスで一番の美少女から、急に何故か告白された件~
八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」
ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。
蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。
これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。
一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

クライエラの幽微なる日常 ~怪異現象対策課捜査file~
ゆるり
キャラ文芸
正義感の強い警察官と思念を読み取る霊能者によるミステリー風オカルトファンタジー。
警察官の神田智輝は『怪異現象対策課』という聞き馴染みのない部署に配属された。そこは、科学では解明できないような怪異現象が関わる相談ごとを捜査する部署らしい。
智輝は怪異現象に懐疑的な思いを抱きながらも、怪異現象対策課の協力者である榊本葵と共に捜査に取り組む。
果たしてこの世に本当に怪異現象は存在するのか? 存在するとして、警察が怪異現象に対してどう対処できるというのか?
智輝が怪異現象対策課、ひいては警察組織に抱いた疑問と不信感は、協力者の葵に対しても向いていく――。
生活安全部に寄せられた相談ごとを捜査していくミステリー風オカルトファンタジーです。事件としては小さなものから大きなものまで。
・File→基本的には智輝視点の捜査、本編
・Another File→葵視点のファンタジー要素強めな後日談・番外編(短編)
を交互に展開していく予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる