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第4話 四人目のメンバー⑸
しおりを挟む険悪な空気が流れるかに思われたが、野分はバットを肩に背負ってにっこり笑った。
「うん。確かに今の俺らじゃ無理だ。だからこそ、キミみたいな奴が入部してくれると心強い」
雷はぐっと口を噤んだ。にこにこ笑っている野分相手にこれ以上怒鳴っても無駄な気がしたのだ。
「ねえ。一緒に野球をやらないか?」
野分が言った。
雷は足元に転がるボールを見た。それから、目の前の三人を見る。
(野球、か……)
雷の胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。この感覚は知っている。サッカーの試合でも毎回感じていた。闘争心だ。
野球に関しては素人だが、自分ならすぐに上手くなる自信がある。それに、たった三人の状態から甲子園を目指すという無謀な挑戦は嫌いじゃない。壁が大きいほど、闘争心は燃えるものだ。しかし、
「やめておいた方がいいぜ。俺はチームプレーに向いてねぇんだ」
どうせまた同じことになると、雷は三人に背を向けた。
さっきバスケ部を辞めたばかりだ。自分には「仲間」とか「一緒に」とかが似合わないのだ。
「野球みたいな青春くさいのは性分じゃねぇんだ」
そう言って歩み去ろうとする雷の背中に、野分が再び呼びかけた。
「ちょっと待ってよ。キミは野球のこと誤解している」
野分のその言葉に、雷は思わず立ち止まって振り返った。
「誤解、だあ?」
「そう。野球のことを青春臭いチームプレー競技だと思い込んでるだろ」
雷は眉をひそめた。まっすぐ雷を見て胸を反らせる野分に、その通りだろうがと言いたくなる。
野球と言えば、青春と汗と涙と坊主頭の象徴だ。異論は認めない。
だが、野分は雷に向かって得意げに微笑んでみせた。
「野球はね、敵だけじゃなく、味方とも戦う競技なんだよ」
野分が片手に持っていたボールを空に向かって放り投げた。放物線を描いた白球が落ちてきて、それを野分の背後の晴がぱしっとキャッチする。
「そりゃ、作戦とか采配とかいろいろと仲間のために考えなきゃいけないこともやらなきゃいけないこともあるけれど、根本的には、ピッチャーもバッターも守備もみんな、自分の得意なことで一番になろうとガムシャラになればいいんだ」
「こんぽん敵には? きつねとたぬきの敵?」
「霧原くんは黙っててね。
たとえ同じチームでも、俺は投げることだけは誰にも負けたくない! 野球に一番必要なのは「俺が一番いい球を投げる!」「俺が誰よりかっ飛ばす!」「どんな球でも捕ってみせる!」そんな泥臭い闘争心だよ!」
野分はびしぃっと雷を指差して言い放った。
「俺の見たところ、キミは絶対に負けず嫌いだ! その性格、野球に向いている!」
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